2008年9月5日金曜日

かなめも

 スズナリ!』の連載が終わり、そして始まったのが『かなめも』です。最初は、不幸な少女ものかと思って、だっていきなりお葬式から始まるんですよ。たった一人の身内である祖母を亡くし、天涯孤独の身となった中町かながヒロイン。住むところもなく、お金もなく、頼る先もなければ、身を寄せるあてもない。そんな彼女がたどり着いたのが、住み込み可、求人をしていた新聞販売店です。朝夕の配達に人出がいる、けれどいくら人手が足りなくとも、中学生のかなを雇うというのは考えにくい、だからここには漫画としての都合と、そしてあるいは所長代理の計らいがあったのでしょう。かくしてかなの、新聞専売所での生活が始まります。

連載で読んでいた時には、序盤に多少のもたつきを感じて、登場人物はヒロイン含め当初は六人。キャラクターに癖をつけてあるから、見分けやすく、把握をしやすいのはいいけれど、かなの飛び込んだところが新聞専売所であると判明するのは第二回目に持ち越し、こんな風に設定が小出しにされるという印象があったためか、この漫画にのっていけるだろうか、少し心配に感じたものでした。ですが、かなが実際に新聞を配達するようになって、新聞販売店のシビアな側面や、配達員が経験する現実のようなものががちらほらと語られるようになって、がぜん面白みが増したというように感じています。だから、もしかしたら私は、この漫画の最大の売りであろう、若く綺麗な女性がいちゃいちゃとしている、そういう面よりも、新聞配達という仕事を扱った漫画として読んでいるのかも知れません。仕事のネタをメインとして、いちゃいちゃに関しては漫画を盛り上げるフレーバーと思っている、どうもそういう節があるようです。

さて、冒頭にもいいましたように、いきなりの不幸に戸惑うかな、彼女がヒロインであります。連載では、はたしてどういう展開が待っているのか、わからないままに読み進んで、整理する余裕もなく、先を先をと思っていたのですが、単行本で読み返すとさすがに状況もよく把握できるようになって、だからこんなことをいうのですが、これは小公女なのかななんて思ったのですね。唯一の身内を失って、落ちぶれて、あくせく働く身になるのだけれど、けれど最後に仕合わせがやってくるよという、そういう余地がすでに用意されているような第一回に、私は小公女のヒロイン、セーラが置かれた状況を感じたのでした。だからかなは、きっと最後にはすべての問題が片づいて、仕合わせになるんだと、そんな風に信じていて、けれどそれは今の状況を否定するようなものではなくて、仲間、友人に支えられて働いたということが、彼女を成長させてより素敵なレディにさせるのだと、そんな予感がしています。

どういう方向に向かうにせよ、今かなの身を置く場所は、かなに対して親身で、力になってくれるところであるし、けれどかなは、ただここにい続けるばかりで、行く先のないままに置かれるということもなさそうだ、ひとつの出口の可能性が用意されていると感じられます。ただ、その可能性がどう働くのかはわからない、かなは受け入れるのか、あるいは退けるのか、けれどいずれにしても過去と現在が未来において結び合わされる、そんな予感をさせる第一巻でありました。

この漫画の表に立つのは、女の子同士のいちゃいちゃや、女の子に対するセクハラ — 、あのはるかさんという人は、読者のよこしまな面を一手に引き受けて代行する、そんな役割が感じられて危ない — 、ともあれ、女の子ばかりの華やかでちょっと艶やかな日常が目に付きますが、それだけではない、例えば職業ものとしての風あいもある、もちろん友情を積み上げるような要素も、それからかなが出会うワンダー、おとぎ話めいた感触もある、多面的な読みができる漫画であると思います。だから、受け取る人がどの面に面白さを見出すかで、感じられるものも変わってくる。いや、けどきっと、女の子のかわいさが一番強い味付けなのかも知れませんね。それをわかった上で、この漫画の底には、職業ものの土台があると、そして苦労しながらも成長しようという少女の物語があるのだと、私は主張したいようですよ。

  • 石見翔子『かなめも』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社.2008年。
  • 以下続刊

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