ある日、届けられた大荷物を開けると、出てきたのはキャサリンと名乗る金髪美女。しかしその実体は、頭はいいけど、ちょっと地味で、メガネ掛けてて、ちょっと背の低い
、ドジッコで、引っ込み思案で、幼児体型で、貧乳の
神田千代さんだ。考古学の調査とやらで、海外に出かけている調査隊一行がかかってしまった古代の呪い、それは金髪碧眼、まったく違った風貌に変えられてしまうものだったというから、地味に大変です。ええと、見た目白色人種だからパスポート使えないんですね。だから、荷物としてキャサ……、神田千代だけが帰国したと、そういう次第。そして、次々と送られてくる発掘物、古代のオーバーテクノロジーが引き起こす事件が平和だった緒川家を襲う! けど、なんだかそうした騒動も楽しそう……。なにがあろうと揺るがぬ緒川家の騒々しくも平和な様子が、とにかく楽しい漫画であります。
『あるころじっく』が連載されていたのは、『まんがタイムきららフォワード』。よってコマ割り漫画であるのですが、テンション高く古代文明の謎に取り組んだりもしないし、そもそもどんな騒動が押し寄せようとも、穏やかな日常を逸脱しないという、そのゆるやかな感覚が好きでありました。ヒロインはキャサ……、千代ちゃんなんですが、他にも二人、緒川家の娘二人、奈菜葉と真茅がいて、そして途中からいとこの響ちゃんが加わって、この普通っぽく見せてどこか普通じゃない人たちがよかったと思うんです。妙に肝が据わっている、きっとあの親父さんに鍛えられたんでしょう、なにがあろうと動じない。あくまでマイペースに、日常感覚を維持し続ける。この漫画のテイストを決定しているのは、間違いなくこの人たち、特に奈菜葉、真茅の姉妹であると思います。
この漫画のテイストっていったいなんなんだろう。それは、大変を大変にしない、それに尽きると思います。古代文明の呪い、それが人を金髪美人に変えるというナンセンスなものであった、それもまたテイストのうちだと思うのですが、大騒ぎで大ごとにしようとすればいくらだってそうできるのに、それをしない。なにがあっても安全で安心。最後こそには少々のシリアスが盛り込まれましたけど、基本的には空騒ぎなんです。事件、騒動が持ち込まれて、一時わあわあと盛り上がってみて、解決したらば元通り。なんか大変だったけど、面白かったね。そのアトラクション的盛り上がりが、日常をちょっと非日常に変えて、幸いでした。みんな仲良く、それがなによりの幸いでした。
みんな仲良く、それがこの漫画のよさですが、反面それが印象をおとなしいものにしてしまうから、物足りないと思う人もいるかも知れません。でも、私には苛烈さよりもこのやさしさが嬉しかったのでした。毎月を楽しみにして読んで、どこか大切と感じた、なんだか妙に気になる、好きな漫画だったのですね。
- 大富寺航『あるころじっく』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
引用
- 大富寺航『あるころじっく』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- 同前。
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