2008年1月12日土曜日

宇宙戦争

  NHK制作のドラマ、『感染爆発~パンデミック・フルー』を見ていました。パンデミック・フルー、これ、いったいなにかといいますと、いずれ起こるだろうと予想されているインフルエンザの爆発的大流行のことです。トリインフルエンザウィルスが変異し、人から人へ感染する能力を持った新型インフルエンザウィルスが生まれたらどうなるか。NHKのサイトから引用しますと、だいたい以下のようなことになる模様です。

どこかの国で新型インフルエンザウイルスが出現すれば1週間で全世界に拡大、未曽有の悲劇が人類を襲うことになる。ひとたび日本国内に入れば、だれも免疫を持たないため、瞬く間に感染が広がり、医療機関、交通機関、食料供給など社会は大混乱に陥る危険性がある。

厚生労働省の試算では日本における死者数64万人、多く見積もって200万人を超えるという専門家もあるのだそうですね。

いや、いたずらに恐怖をあおろうというのではないのです。ですが、これはどうも逃れられぬ運命であるようではありませんか。だから、ここは覚悟を決める必要があるなと、そういう思いでひりひりしています。

H. G. ウェルズの小説『宇宙戦争』が発表されたのは1898年のことでした。今や古典といってもいいくらいに古びたSFでもあり、何度か映画にもなっていますから、わりと知られていることかと思います。飛来した火星人により地球が侵略されるというストーリー。またこのラストの意外さ、病原菌により火星人が駆逐されるという、人類の無力さが際立つプロットは、さすがウェルズというべきか。けど、あれほどの兵器を持って地球に下り立つことのできた知的生命体にしては、あまりに衛生に関する意識が低すぎる。とはいえ、昔の小説ですからあまり突っ込まないでおきます。

ここで『宇宙戦争』を引いたのは、他でもないこの火星人の末路が、これから起こるだろうパンデミック・フルーを彷彿とさせたからです。パンデミック・フルーといえば忘れてはいけないスペインかぜの流行、これは世界かぜともいわれますが、世界規模の流行により多くの命が失われました。まさしく世界史的事象であったスペインかぜ、人類の経験した最初のパンデミックであったのだそうですが、これは1918年の出来事でした(ウェルズの『宇宙戦争』の方が20年も早い!)。

当時の日本の人口、Wikipedia記事によればおよそ5500万人。死亡者数は約39万。0.7%ってとこだから、今の日本の人口を一億二千万と見たら、だいたい84万人くらいが危ない。厚労省予測はそれよりも低めに試算されているわけですね。けれど、数十万という単位で死者が予想されているというのも恐ろしい話で、そしてもちろん死者よりも多くなる感染者。大混乱でしょうね。日本もそうなら、世界においても変わらんでしょう。いやはやどうなるものかな、ひりひりします。

そのインフルエンザ大流行、現在(2008年1月)の状況はどういったものかといいますと、こういう時には厚生労働省のサイトが便利、専門のページももちろんありまして、WHOつまり世界においてはフェーズ3、ヒト−ヒト感染は無いか、または極めて限定されている状況だそうで、そして日本はどうかというとフェーズ3A、国外でトリからヒトへ感染がみられ、国内ではトリからヒトへ感染した患者は発生していないという状況です。けど、2008年1月10日報道によりますと、ええと、朝日新聞の記事から引用しますと以下のとおり。

中国で初、人から人への感染確認 鳥インフルエンザ

 中国・南京市の父子が鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)に感染した問題について、中国衛生省の報道官は10日の定例会見で、死亡した息子から父親への感染を確認したと発表した。中国で人から人への感染が確認されたのは初めて。ウイルスが「新型」に変異すると大流行する恐れがあるが、「遺伝子の変異はない」としている。

 父親は完治しており、父子と接触があった約80人からは異常が見つかっていないという。ただ、死亡した息子への感染ルートはまだ確認できていない。報道官は「冬から春にかけて鳥インフルエンザが多発する恐れがあり、予防対策を徹底していく」と述べた。

 オランダやベトナムなどで鳥インフルエンザの人から人への感染が確認されている。ウイルスが人から人への感染力が高い新型インフルエンザになると、世界的に流行する可能性がある。

いやはや、恐ろしい話で、これはくるな、早晩くるなという思いを強めさせるに充分なニュースでした。

なお、我が家におきましては、もっとも感染リスクの高いのは私なんですよね。なんでかというと、電車通勤してるから。実にやばい。不特定多数と日々接触しているというわけで、昨年末からのどを痛めないためにマスクを常時着用していますが、これは今後も続けたほうがよさそうだなと、そんな風に思っています。だって、風邪ひいてもかまわず咳くしゃみする人はいますからね。電車の中でも普通に遭遇しますから、うわあやだなあと思って、けど相手が構わないならこっちがかまうしかなく、だからマスク。なにしろ現在はパンデミックアラート期に入っているわけで、そしてもしかしたら今は、ヒト−ヒト感染を起こすウィルスが発生し、しかし潜伏している状況であるのかも知れないわけで、インフルエンザウィルスの潜伏期間はだいたい三日程度、早いものなら一日、長くて五日くらいだそうですから、気付いたら複数人が感染、フェーズ4に移行なんてことになってもおかしくない。そして、そうなったら5、6と駆け上がる可能性もあるんですね。いやあ、洒落にならん。

というわけで、とりあえずは明日のNHKスペシャル、シリーズ 最強ウイルス 第2夜 調査報告 新型インフルエンザの恐怖はなんとしても見ようと思っています。見たらなんとかなるわけでもありませんが、とりあえず、ウェルズの火星人みたいにして死ぬのは避けたい、なら少しでも知識をつけ、いざという時に最善を尽くしたいとの一念なのであります。

  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』雨沢泰訳 (偕成社文庫) 東京:偕成社,2005年。
  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』中村融訳 (創元SF文庫) 東京:東京創元社,2005年。
  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』小田麻紀訳 (角川文庫) 東京:角川書店,2005年。
  • ウェルズ,H. G.『H・Gウェルズの宇宙戦争』武田勝朗訳 (全米ラジオドラマ傑作選 ミステリー劇場) 東京:ユニコム,2001年。
  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』井上勇訳 東京:東京創元社,2000年。
  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』加藤まさし訳 (講談社青い鳥文庫) 東京:講談社,1999年。
  • ウェルズ,H. G.『宇宙戦争』福島正実訳 東京:春陽堂書店,1989年。

映画

引用

参考

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

あーこれ見れば良かったなあ、見ようかと思ったんだけど、睡魔には勝てず、今のような辺あじかんに起き出しています。

現実に一部の企業では、新型ウィルスに対する対策を実施しているらしいですね。国や病院の方がのんきなのだとか。(いやドラマは見てないんですけどね)

matsuyuki さんのコメント...

今日(日付としては昨日になってしまいましたが)のドキュメンタリーでは、日本の対策の遅れが指摘されていました。アメリカでは国家が先陣を切って、パンデミックに備えようとしている、そしてその際には助かる可能性のある人をも切り捨てなければならないという事態もありうる、そのような過酷な現実に対しすでに覚悟を済ませている現場の人間の姿がありました。目を潤ませながらも、決して涙をこぼさなかった彼彼女らに、本当の意味でのプロフェッショナルを感じました。

ドラマ、ドキュメンタリーともに再放送がなされるそうです。次の水曜でしたっけ? できれば多くの人に見てもらいたい番組です。パンデミックや新型インフルエンザについて、多くの人は知らないか、知っていても侮っていますから、このままではとんでもないことになりそうだ。ちょっと危機感をつのらせています。