こないだ、表紙を見てピンときて買ってみた『かよちゃんの荷物』が面白かったから、雁須磨子の別の漫画、『ピクニック』というのも買ってみたのです。これ、太田出版から出ている漫画で、fx comicsだから多分『マンガ・エロティクス』あたりに掲載されたのが載ってるのかなと思ったんですが、けどこの雑誌って、タイトルにエロティクスなんてあるわりには、別にそんなにエロかったりはしないよなあっていうのが印象で、もしかしたら私勘違いしてるのかな。でもfx comicsって、どちらかというとエロ寄りじゃなくてコアな漫画読みに向けたものが多いような気がします。『青い花』はともかくとしても、『秘密の新選組』とか『ラビパパ』あたりからはそんな匂いが感じられるのです。
というわけで雁須磨子。掲載作は非エロからちょいエロ、しっかりとエロまで結構多彩で、とりあえず表題作が一番エロ。ええっと、巻末収録です。けど、どれを見てもそうなんですけど、直接的にエロを感じさせるシーンが展開されたとしても、けれど普通のエロ漫画のようには読めなくて、なんというんかな、やっぱりエロが目的じゃないんだと思うんですよ。エロが現れたとしても、それは別のなにかを表現するための手段として機能しているんだと思います。だから、ネガティブにいえばエロに没入できない。ポジティブにいうならエロではない別のなにかを嗅ぎ取ってしまうのだと思います。
巻頭作「春なのに」は『マンガ・エロティクスF』掲載作なんだそうですが、特にそんな感じ。セックスシーンも出てくるんだけど、むしろエロは感じなくて、妄想と良識が交錯するなかに欲望が散って溶けていくような、そんな感じがあって、ほのかに甘い郷愁というか少年期への思慕みたいなのが感じられるラストはむしろ叙情性があって好きであったりします。
こうした叙情性、あるいは精神の交感への傾倒は他の収録作にも見られて、『エロティクス』ではない別雑誌に発表されたものの方がその傾向は強いと感じられます。面白かったのは『小説JUNE』初出の二作かなあ。妙に純愛志向であったり、変に屈折していたり、けれどそれは別に『エロティクス』掲載作がその方面で弱いというわけでもないから、やっぱりこうしたのが雁須磨子の味なんだろうと思います。
平凡ながらも、ちょっと変わり者っぽいところのある人たち。そういう普通の人たちが、ボーダーの上で、平凡に寄ってみたり、変わり者に寄ってみたりしながら、思いを交換している。それはささやかに、ちょっとしたしぐさやなにかに浮かぶものであったりして、この感覚がいいのかななんて思うんですが、だとしたら表題作はちょっと異色かも。異色ながらも、その奥にはやっぱりいつもながらの風はあると思うのですけれども。
- 雁須磨子『ピクニック』(fx comics) 東京:太田出版,2001年。
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