2007年5月12日土曜日

怪物さん

 インターネットはSNSにて、西川魯介の新刊が出てるよという情報を得ましてね、その名も『怪物さん』。ぱっと聞いて藤子不二雄を思い出してしまったところに自分の世代というのが現れると思うんですが、けど、多分これ意識してるんじゃないかなあ。ともあれ、西川魯介漫画を片端から買いそろえている私ですから、新刊が出たとあれば買わないわけにはいきません。漫画の品揃えに定評のある書店にいって、新刊の平積みを見て回れば、ありましたありました。ん? 表紙の白髪眼鏡の女性。ああっ、『怪物さん』って立烏帽子先輩のことだったのか。そうならそうといってくれなきゃ、という私は、これまでに読んできた魯介漫画にちらほらと現れてはその存在感を示してきた立烏帽子先輩のファンであったりします。これまではあくまでも脇役であった立烏帽子先輩が主役! これは期待が高まるなあ。

と思ったら、やっぱり先輩は脇役なのかあ。主役は種村広樹、ヒロインが酒井初芽。けど、この二人は常に出ているわけでなく、話によってはまったく関わってこなかったりもして、むしろさまざまの事件の発端を作るのは生徒会長の渋沢弥生(眼鏡)であったりして、そして度重なる怪奇を解決ないしはその不思議な眼力でねじ伏せるのが我らが蛇の王、立烏帽子清華(眼鏡)であります。

そして、やっぱりがもうひとつ。第一話を読んだとき、あ、今回はエロ傾向が少ないのかなと思ったら、そんなことはない、エロエロじゃないか。参ったね。正直いいますと、私は魯介エロはちょっと苦手なのです。まあ、嫌いというまではいかないんだけど、積極的に好きなれない。そういう感じなので、エロ方面ではもうちょいマイルドなほうがよかったのになあなんて思ったり思わなかったり。

基本的な話の流れは、種村や初芽を代表とする若者たちが巻き込まれた怪奇事件を立烏帽子が解決していくというものなんですが、これらがまあエロ絡みになってしまうというのはさておいて、悪さをなすのが日本妖怪的な、おどろおどろしさにどこか憎みきれない間抜けさというか親しみというかを合わせ持った、そういう連中であるのが魯介漫画の味なのかと思います。人死にが出るわけでもなく、とんでもない不幸が押し寄せるでもなく、なんかごたごたと迷惑に巻き込まれて、ごたごたと解決して、とっぴんぱらりのぷう。なにごともなく日常に回帰する。いや、あれ、日常じゃないな。あんな生徒会長が普通に存在している日常なんて嫌すぎる。ともあれ、日常と非日常が共存する、そういう日本怪奇譚的な雰囲気があるんです。

このいつもの状態に戻ってくるばかりと思っていたら、そうではなかった後半戦。まあ、立烏帽子を取り巻く物語であるとわかったときからそうなるんだろうなあという覚悟はしていたんですが、しかしそれにしても立烏帽子にああもきっちりケリがつけられるとは思ってもいませんでした。きっとこの漫画が終わっても、妖異怪異のからむところには立烏帽子が現れて、いつものようにいつものごとくあの眼力を見せてくれるものだと思っていた私の予測は甘かったと見えますね。けど、まったく終わりではないという感じも残して、だからこれまでの立烏帽子を巡る怪異譚はひとまずの終わりを見せて、これからは新しい話が語られていくということなのでしょう。もしそうした話がつづられるのだとしたら、魯介マニアといわれても仕方のない私のことですから、きっと楽しみに読むことでしょう。初期のちょっと怪異な読み切りみたいなのも読みたいところですが、また新しい蛇の王を巡る話も読みたいものだと思うところです。

ところで、『怪物さん』にはこれまでの魯介漫画に登場した人たちが、特になんの説明もなしに現れてきますが、雑役オッドジョブとか朧谷(眼鏡)とか、あと野槌さん(眼鏡)もそうか。この人たちのバックグラウンドがわからなくても『怪物さん』単体で充分話を追うことはできますが、知っていたほうがきっといいんじゃないかなあ。そんな風に思います。彼らの扱いを見れば、『怪物さん』は、これでもって新たな読者を獲得するというよりも、むしろ既存のファンに向けられた物語であるという方が適切なのかも知れません。だとしたら残念かなあ。西川魯介は面白いのに。人を選ぶけれど、面白いのに。もっと読まれて欲しい人だと思います。

はじめての魯介漫画は『屈折リーベ』がおすすめです。『SF/フェチ・スナッチャー』あたりもいいんだけど、これはこれでエロだものなあ。好きなんだけど、人に薦めにくいのはちょっと困りものです。

  • 西川魯介『怪物さん』(BIRZコミックス) 東京:幻冬舎コミックス,2007年。

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