2005年7月29日金曜日

屈折リーベ

 なんか、眼鏡盗というのが出たんだそうですね。中学の時に友人から眼鏡を貸してもらい、よく見えるようになったのが快感になり、盗むようになったと、ものとしての眼鏡そのものへの偏愛がうかがえるコメントを残していまして、これこそフェティシズムの極まれるところであると恐れ入りました。しかしこういう非現実的な事件というのも世の中にはおこるのですね。ある種、アメイジングな気持ちに襲われております。

で、このニュースを見て最初に思ったのが西川魯介で、この人は漫画家なのですが、眼鏡好きを公言し、眼鏡着用者への偏向をあからさまにした漫画を書くことでことさら知られています。眼鏡への偏愛をそのままテーマとした漫画もありまして、それが『屈折リーベ』です。

けど、実は私は『屈折リーベ』は一読者としては好きであるといいながら、けれどあまり高くは評価していません。なんというんでしょう。これはフェティシズム的傾向にある少年が、そのフェティシズムゆえに人を好きになって、けれど最後にそのフェティシズムを越えようという物語なのですが、最後の最後、その昇華に向かう動因が少し希薄であったと思うのです。劇というのは、対立する要素が戦い、その果てに止揚してみせる(止揚 = Aufheben:矛盾する諸要素をまとめて乗り越え、より高い位置でそれら矛盾を解決しひとつにしてしまうこと)発展的運動にほかならないのですが、この漫画では、今対立する両要素を乗り越えようというそのときに、いまいち乗り越えるのに必要な勢いが足らず、結局ひとつの要素には遠慮してもらいましたという、そういうちょっと煮え切らなさが感じられたのです。

けど、それでも私はこの漫画が好きです。不器用な少年、不器用な少女の、不器用な恋愛模様が、みていてとても歯がゆく、けれど懐かしかったりほほ笑ましかったりして、胸の奥がくすぐったくなる。こういった感じというのは、もう長い間忘れてしまっていて、けれどこういった漫画を見ればちょっとはよみがえってきて、その移ろう季節を遠くにみるような感覚が好き。『屈折リーベ』にはギャグやらなにやらがちりばめられて、表向きにはなんだか騒々しいところもありますが、そうしたにぎやかしの向こうに見える繊細な情景をとてもいじらしいと感じるのです。

西川魯介の漫画といえば、このところみるのはどうにもエロが過剰だけれど、またたまにはこういうのも描かれたりはしないものでしょうか。私は、これくらいの時期に描かれたものの、ほのかな叙情漂う作風がお気に入りだったのです。

  • 西川魯介『屈折リーベ』(ジェッツコミックス) 東京:白泉社,2001年。

引用

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