2007年5月13日日曜日

はなまる幼稚園

 『はなまる幼稚園』を買うときにはちょっと迷って、どうしようかな、多分普段なら見過ごしにした漫画だと思うのですが、作者が勇人、『ぱにぽに』の氷川へきるのアシスタントだった人で、この人の漫画は『ぱにぽに』絡みでちょこちょこっと見てきたけれど、オリジナルはついぞ読んだことがないんですよね。というわけで、ちょっと不安。で、迷ったというわけです。でもね、『ぱにぽに』絡みで見てきたこの人の漫画は、そつなく書けているし、絵も綺麗だしで、結構気に入っていたものですから、オリジナルもちょっと試してみようかなと思いまして、買ってみたのです。そうしたら、あたりでした。もしかしたらちょっと浅いんじゃないかという事前の不安を払拭して、おつりがくるくらいに面白い漫画でありました。

漫画の主人公は、ヒロインが杏、幼稚園児。男性側主人公が土田、幼稚園教諭。土田先生大好きの杏が、あの手この手でこれでもかと迫る漫画なのであります。などというと、私屋カヲル『こどものじかん』なんかを彷彿としてしまいがちですが、いやいや、あんなに過激じゃない。いや、ちっともというべきでしょうかね。杏は自分が一人前のつもりでいるんだけど、土田先生からしたらそりゃもう小さな子供ですからね、うまくあしらわれてあしらわれて、まったくもって相手にされてないんですが、けどそれでも大好きな先生に大事にしてもらっているということが伝わったときの杏の会心の笑顔が可愛いんだ。釣り込まれて一緒に笑ってしまうような笑顔。なんかもう本当に罪のないって感じでしてね、読んでるだけでかたくなな心もやわらかに変わる。いい漫画だなあ、本当にそう思います。

けど、この漫画は杏と土田先生だけのお話ではなくて、柊と小梅という、また杏とはキャラクターを違えた園児がいて、そして同僚教諭の山本先生もいて、それぞれがそれぞれの思惑で動いて、またそれが仕合せな気持ちにしてくれるものだから参ってしまいます。山本先生は杏にとっては恋のライバル(!)なんだけど、それでも杏は山本先生も好きだし、山本先生ももちろん子供たちのことが好きだしで、見ていてやっぱり嬉しくなる。ちょっと気弱な小梅ちゃんも不思議系の柊も、杏とは違ったやわらかな世界を作り上げて、ふくよかに幅のあるいい漫画に仕上がっているのです。

実際、小梅メインの話にしても柊メインの話にしても、それぞれに違った個性に応じた面白さを見せて、つんと胸に暖かさの芽生えるようなよさがあれば、世界に向かう愛がロマンティックに広がるようなものもあって、全然一本調子じゃない。園児と先生という限られた登場人物で、思いもしなかった豊かさを見せてくれる漫画。読むたびによさがしみてきますよ。

  • 勇人『はなまる幼稚園』(ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。
  • 以下続刊

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