2007年5月22日火曜日

ワンス・アポン・ア・タイム

最近つきあいのある高校生と今日偶然ばったり出会って話なぞしたのですが、そいつはですね音楽を生業にしたいなどと考えていて、それで進路を音楽大学になんていっているんです。正直、おすすめしないんですが、できれば避けるべき、一般大学にいきながらぼちぼちやればいいじゃん、趣味で、なんて思うんですが、というかその旨本人にもいっているんですが、それでもやっぱり音楽をやりたいだなんていうんです。いやね、もう俺には音楽しかないんですよ! なんていって実際目の色変えて音楽に取り組んでるとかだったら別なんですが、どうも見てるとそんな感じじゃないんです。なんか音楽をというか世の中を甘く考えてるなあみたいな風で、ほら高額所得者を見るとミュージシャンがいたりしますでしょ、ああいうのになりたいっていうんです。作曲して、作品を提供して、プロデュースなんかしたりもして、それでお金持ちになって、みたいなこと思ってるみたいですが、 — 正直その夢は破れるだろうなという予感で一杯です。

でも、高校生くらいって馬鹿なんですよね。私だってそうだったもの。私は演奏家になりたくて音楽方面に進路をとったのですが、それで今なにやってるのといわれると、ほんとなにやってるんでしょうね。ギターは弾いてるし歌も歌ってるけど、そのどちらも高校時分の私が志したものではなくて、ほんと迷い道くねくねの人生。高校生の頃はサクソフォン奏者になりたかったのです。でも私なんかじゃ無理だろうなって思ってて、ところが高校吹奏楽部に教えにきて貰ったトランペットの学生が、なんかすごくいいかげんな感じで芸大(大阪ね。まかり間違っても東京じゃないよ)に入ったなんて話を聞かせてくれて、そうかあもしかしたら今からでも間に合うのかも知れないと思った。それが高二の冬。しかしね、よく入れたもんだと思いますよ。たいした学校じゃなかったとはいってもさ、あんな後手後手の受験で潜り込むことができて、けど私の場合そこまででした。

大学に入ったら、なんとか道ができるのかなみたいな漠然とした甘い考えがあって、今の自分から見ると、そんなわけないじゃん、なにゆうとんの、ってなもんなんですが、ほら高校生って馬鹿だから。特に私は馬鹿だったなあ。で、今のこのていたらく。まあ後悔はしてませんけどさ、けれどこれからの未来ある若者に自分のような無軌道人生を歩ませたいとはちと思いません。

さて、件の高校生の話を聞いていてちょっと昔を思い出したのです。彼のアイドルはどうやらコブクロであるようなのですが、私のアイドルは誰だったろう。そして思い当たったのが須川展也でした。私が高校生だった時分にデビューした演奏家で、私の楽器の選定者がこの人。楽器を買ったらサイン入りCDが付いてくるという話で、それが『ワンス・アポン・ア・タイム』でした。

サクソフォンソロのライトクラシックといったらいいんじゃないかと思います。冒頭はグリーグの叙情小品集から三曲。美しい愛らしい小品で、聴きやすく、高校生の私には非常によかったと思うな。実際私は楽譜を買ったり、あるいは耳で聴いて覚えたりして、いくつかを練習して、いつかこの人みたいになれたらいいなあ、と思っていました。CDとか出せたらいいなあ、なんて思っていて、けれど今となってはまあなんと無謀なことをなんて思うんですけどね。インターネットがあったわけでなく、CD-Rにしろプレスにしろ、個人で安価にCDをリリースできるような時代じゃありませんでした。だからこそこれらは夢であったんだと思いますけど、でも件の高校生に比べるとなんとささやかな夢なんだろうなとも思います。

その後私はサクソフォンから離れ、まずは自分の技術のなさが原因で転科、そしてその後いろいろ思うところがあって決定的に離れたんですが、まあサクソフォン自体を嫌いになったとかじゃありませんよ。むしろたくさんある楽器の中のひとつとしてサクソフォンを捉えるようになったというのが正しいと思います。そうして見ると、サクソフォンという項でしか音楽を捉えられていなかった私は、視野が狭かった。サクソフォンを抜けても吹奏楽という枠があり、それを抜けても標題音楽という枠があり、まあそれらが悪いとはいわないんですが、けれど音楽はそれだけじゃないんだなと、そんな風に私は変わって、だから高校短大時分にあれほど聴いたサクソフォンのCDも、次第に聴かなくなって、実際iPodを入手し、所有する音楽をシャッフルで聴くようになるまで、それらは忘れられていました。

『ワンス・アポン・ア・タイム』は今から聴くとずいぶんと若い演奏で、けれどそのストレートな表現、てらうでなくこびるでもない、真摯なふうが聴き取れる感じは決して嫌いじゃないと思います。先ほどもいったグリーグの『叙情小品集』とかは今聴いてもいいと思いますし。今はあえてこのCDをアルバムで聴こうとは思わないけれど、稀にシャッフルで現れてくるのを聴いて、懐かしさだけでなく、その音楽に耳を傾けようということもあるのです。まあ、これが自分の青春だったのかなって、そんな風に思うわけでもありませんけれども!

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