松山花子の『私が会社に行く理由』が完結しました。私が松山花子の漫画を読んだのはこれがはじめてだったんじゃないかと思うんですが、あまりに自分本位なヒロインであるとか、漫画全体から感じられる辛辣なテイストだとか、そういうのがすごく新鮮と思われたものだから、毎号を楽しみにして、単行本も買ってと、いうならばちょっとはまってしまったような感じであったんです。ただ、辛辣さでいえば『あなたが主役になった時』の方がずっと上で、だから『私が会社に行く理由』は、自分勝手な女容子のゆがんだ、あるいは異常な愛の行方を楽しむための漫画であるといったほうが正しいかと思います。
主人公容子の異常な愛といっても、その愛が向かうのは相思相愛(?)の夫ショーンに対してだけだから、まああんまり周囲に迷惑があったりはしない。この、比較的無害であるところが、落ち着いて楽しめる所以じゃないかなあとそんな風に思っているんですが、どうでしょう。二枚目のイギリス人と結婚するべく策略を巡らした女容子は、日中も夫ショーンを監視しようと、別名でショーンの会社で働いているという異常事態。この行き過ぎた夫愛に基づく行動の馬鹿馬鹿しさ、ナンセンスを面白がる、基本はそういう漫画です。
この異様な状況を成立させるために、ショーンは髪形でしか日本人女性を判別できないという設定があったりなど、多少無理矢理なところはあるんだけど、その無理を無理と承知しつつ通そうとするあの手この手がいいんですね。職場の女子社員がショーンに寄りつかないよう工作を施したり、また職場での自分が容子であると気付かれないよう、ショーンに厳しく接したり、そしてそうした行動が裏目に出て新たな関係が生じたりと、それもちょっと倒錯したような感じで出てくるのが松山花子という漫画家の味なのでしょう。この人は、ちょっと倒錯気味の関係を描くのが非常にうまい作家だと思います。容子とショーンの関係にしても、またショーンの姉や、容子が便利に使っている男たちにしても、普通はないような異常さが、なんかそれっぽく成立させられて、それっぽく動いてしまっていて、この変なありそう感というか説得性はなんなんだろう。非常に不思議な味が出ています。
けれど、リチャードをはじめとする容子に利用されている男を見ると、人によってはちょっとなと思うところもありそうですね。日本にきたところのリチャードに対する容子の態度は、ちょっとリチャードがかわいそうになるほどだし、それに第4巻は容子に振り回されるリチャードばかりが目立ってしまって、連載でならともかくまとめて読むときついです。もうちょっとリチャードにもそれらしい仕合せを与えてあげて欲しかったなと、そんな風に思いました。だから、書き下ろしというか、そういうのにちょっと期待していたんです。でも、やっぱりリチャードの扱いはああなのねというか、まあリチャードがあれで仕合せならいいか、なんて思いますが、まあ『私が会社に行く理由』は、かわいそうなリチャードを可愛いと思えるかどうかで評価が分かれるところなんじゃないかな、なんて思ったりします。
第4巻では、女の子らしくないショーンの姪エリザベスの話が、全体に綺麗にまとまっていて好きだったんですが、エリザベス周辺を巡る話がもう少し多かったら嬉しかったかななんて思って、だから最後に語られた続いていたらあったかも知れない展開、ちょっと読んでみたかったです。終わるにはそれだけの理由があったんでしょうけど、いきなりに思えたものだから残念かなって思います。もっと読んでいたかった漫画だったものですから、残念だったって思っています。
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