思えばこの漫画との出会いが私の阿部川キネコ初遭遇だったんですよね。『まんがタイムオリジナル』だっけ? を買いはじめた、すなわち『ラブリー』だけにとどまらず芳文社刊行の四コマ誌を手広く買うようになった頃の話です。当時すでに絵柄の可愛さを売りにする漫画はあり、またストーリー四コマと呼ばれる、四コマを次々とリレーしていくことでストーリーを紡ぐものも広く認知されていて、けれどそれでも『ビジュアル探偵明智クン!!』は衝撃的でしたね。一目見て、これどうなんだろうと思ったのです。ジャンルは、タイトルからもわかるように探偵もの(?)。美貌の探偵明智が脱いで脱いで脱ぎまくるというのがコンセプト(?)。とにかく衝撃的でした。けど、一度見れば忘れられないインパクトで、ほどなくして『まんがタイムきらら』にて復活したとき、やったと思わず喜びの声をあげたというのも今やもう懐かしい話になってしまいました。
というのも、あれほど皆に愛された『ビジュアル探偵明智クン!!』ですが、すでに連載は終了しているんですね。探偵明智クンの脱衣ギャグに助手山村美々の殴打突っ込みが炸裂する、これを基本形としながら、時事を辛辣に扱い、またさまざまな探偵にミステリないしはマニアックなネタへのシニカルな視線が投射されていることもあり、なんだなんだ危ないネタだなと思うこともあり、こんなこと書いちゃってほんとにいいのかと思うこともあり、けれどそのぎりぎりさが面白かったんですよね。好きでしたよ。
しかし、明智クンの推理はちょっとすごいよ。第2巻買って読んで、意外に時事ネタの風化して思い出せなくなっていることに残念さを感じながらも、しかしまれに強烈なのがあるから度肝抜かれます。年金がもらえないって誰から聞いた?
と問い掛ける江角マキコのCMに、明智クンの答えときたら誰からもなにもちょっと考えれば誰にでもわかる推理だよね
とくるんですから恐ろしい。だって実際、今、そんな感じなんだもんなあ。この漫画が掲載された当時は、もしかしたらなんて思いながらも、まさかねと笑える余裕もあったけれど、今はそうした危惧が具体的にかたちになって、まあ破綻したわけじゃないとはいえさ、しゃれになりませんわ。ともあれ、明智クンの推理には驚かされました。
けれど、こうした時事ネタはこの漫画の本質ではありません。やっぱり基本はギャグでしょう。明智クンをはじめとする、一癖も二癖もある探偵たち。探偵とは名乗っているけれど、推理とは違う方法で事件に取り組む、というかあんまり真面目に取り組んでいない? そういう無茶でいいかげんな登場人物たちの、その非常識さ、めちゃくちゃさを楽しむ、そういうタイプの漫画です。もちろん探偵がそんな非常識な連中ばかりですから振り回される役目の人もいて、それは助手の山村美々なんですが、けれどこの人は一撃必殺のこぶしで突っ込み入れるもんだから、やっぱりまともじゃないよね。実際、この漫画に出てくるまともな人といったら鬼瓦警部くらいしかいない、多分。ええと、この人、すごく真面目な人なんだけど、それゆえに不憫な人であります。
『ビジュアル探偵明智クン!!』は、人気が衰えない時期に惜しまれながら終了して、その時はずいぶん残念に思ったものでしたが、こうして単行本になってみると、ラストまでテンションの高いまま読むことのできるわけでありまして、だからむしろよかったような気もします。この漫画とナントカの『影ムチャ姫』が終わったことで、きらら誌の一段落もついたのかなと、そんな風にも思います。今『明智クン!!』を読んで、そうかあきららってこんな感じだったっけ、と思った。そう、あの頃のきららはもうなくなって、新しい誌面に切り替わっているのだなあと思いました。終わったのはほんの半年ほど前のことだというのに、すごく昔の漫画のように思えた。意識していなかったけれどそれくらい変わっちまったんだなあと、なんだか妙な感慨にふけっています。
- 阿部川キネコ『ビジュアル探偵明智クン!!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2005年。
- 阿部川キネコ『ビジュアル探偵明智クン!!』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 阿部川キネコ『ビジュアル探偵明智クン!!』第2巻 (東京:芳文社,2007年),13頁。
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