2013年6月4日火曜日

オリンライジング!

 先日書きました、『アイドライジング!』と『オリンライジング!』。戦うアイドル、アイザワ・モモをヒロインとして展開される『アイドライジング!』の物語があって、そしてアイドライジングという舞台の上、多様な物語の生まれる可能性を伺わせた『オリンライジング!』。どちらかだけ読んでも面白いだろうけど、両方読めばきっともっと面白い。そんなこといっていました。けれど、それは、片方だけだと不完全ということを意味しないのです。とりわけ、スピンオフである『オリンライジング!』。『アイドライジング!』に対し副次的な物語に留まるのかいなか? そう問われればこういわざるをえない。ええ、ハセガワ・オリンの戦いの物語、しっかりひとりだちして、見事であるのです。

ハセガワ・オリンは戦う女でごわす。そりゃあたりまえだ。だって、アイドライジングは戦うアイドルの話じゃないか。そういいたいところでありますが、彼女の戦いはアイドライジングの舞台に立つ以前からはじまっているんですね。オリンは、一種プライドだけでいきているような女。本心を隠して、強がりばかりいってるせいで、学校ではひとり。本当は寂しいくせに、その寂しさを表に出すようなことはしない。かっこいい自分であり続けたい。みっともない自分なんて見せたくない。けれど、そんな彼女がアイドルの世界に魅了されて、変わっていくのですね。最初は地下アイドルだった。突然引っ張り込まれて、右も左もわからない、そんな中、ずっと望んでいたなにかを掴めるかも知れない、そう思ったら差し出された手をとらずにはおられなかった。その体験が決定的にオリンを変えてしまったんですね。

誰かを魅了しその視線を釘付けにする快感を知ってしまった。隣りには仲間がいて、共にひとつの目標に向かって取り組む。その心強さ、面白さ。そうしたすべてが、手をのばせば掴めるってことを知ってしまった。けれど彼女の知ったこと、それは望まなければなにも得られない、自ら進まなければなにも掴めないってことでもある。ええ、それからのオリンですよ。なりふりなんてかまっていられないとばかりに、自分がこれと決めたものを手にするために戦う。知ってしまったアイドライジングの世界、その高揚。自分もそのステージに上がりたい。そうと決めたら、もうとまってなんていられない。暖かで優しい仲間やファンたちに後ろ髪ひかれながらも、前へ前へと進む。その決意、意思がオリンの強さなんだと思うのですね。

決して楽な道のりではない。失敗や挫折を繰り返しながらも、自身を、状況を分析し、プライドもかなぐり捨てて、勝ちを掴みにいく。ええ、これはそうそう簡単には運ばない世の中に対し食い下がり、傲慢で理不尽に振る舞う社会、システムから、自分自身の人生を取り戻すためのオリンの戦いなんです。彼女の武器はしたたかさ。勝つためにはなにをすればいいか、その方法を見極めたらば、時にはポリシーを曲げてでも、作戦を遂行する。度重なる失敗にくじけそうになり、また有り得ないほどの理不尽に腐ってしまいそうになりながらも、求める気持ち、夢を支えに、何度でも立ち上がって、彼女の戦いに身を投じる。その姿は、そうそううまくいくもんじゃない、そうした人生を生きるものにこそ眩しく映るんじゃないだろうか。時にくじけてしまい、もう嫌だ、やめたと腐ってしまう。そうした気持ちを繰り返し味わってきたものほど、オリンの挑戦する様に心とらわれてしまうんじゃないだろうか。

一途に目標へと向けられたオリンの眼差し。その確かさが、私の心をとらえて、ひっぱっていってしまうのです。応援しないではおられない。高揚させられる。やってみせろ、やってくれ、やらかしてくれ! その気持ちの高ぶりが、オリンの生き様、彼女の投げかけたものへの反響なのだと思う。彼女の挑戦、彼女の冒険、いよいよはじまらんとする彼女のステージ、彼女の掴みにいく勝ち、それら全部が心を気持ちを波立たせて、落ち着いてなんていられない。それは、私のうちにも、オリンに共鳴するなにかがあるからなのだと信じたい。彼女のいう、勝手に身体が動いてた、自らの背を押すほどの好きという気持ちが、オリンの生き様に呼び覚まされてしまうとでもいうのだろうか。そうなれば、もう、オリンのこと、ひとごとなんかではなくなって、まるで、近しい友人が頑張っている、大事な仲間が戦っている、そうした気分にさせられて、ああ、オリン、頑張れ — 。いてもたってもいられない。じっとなんてしていられないんですよ。

  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第1巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第2巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第3巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2011年。
  • 広沢サカキ『アイドライジング!』第4巻 CUTEGイラスト (電撃文庫) 東京:アスキーメディアワークス,2012年。
  • 以下続刊
  • 藤島真ノ介『アイドライジング!』第1巻 広沢サカキ原作 CUTEGキャラクターデザイン (電撃コミックスNEXT) 東京:アスキーメディアワークス,2013年。
  • 以下続刊

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