2013年6月14日金曜日

乙女ほるもん

 はじまった時の印象と、その後の感想、それがずいぶんと違うのですよ。『乙女ほるもん』は、男子校から共学校に転校してきた男子日渡良介が、一人暮らしの部屋に女の子連れ込めたりしないかな、そんな不埒なこと思っちゃうところから始まる漫画なんですが、いざ本編に入ってみればそうした展開ほぼ見込めないっていう、あれ? あれれ? なんか随分違うぞ? どんどん朴念仁になっていく良介、いやさ女子力のほのぼのラブコメなんでありますよ。女子力、なぜ女子力なのか? それは単純に良介の家事技能の高さ、それでもってつけられたあだ名なのですが、いや、風波さんしか女子力って呼んでないか、ともあれ、女子力良介の新たな学校での生活、そして彼のもとにあらわれた地底人、不思議な出会いをきっかけとしてどんどん変わっていく良介の暮らしの風景、彼の気持ち、それがなかなかによいのですよ。

しかし、最初、地球防衛部とか、それからあの戦闘着が出てきた時はどうしようかと思いました。正直地底人ミミの出現よりも衝撃で、けど読んでいくうちに、そうした設定は後退していき、かわりに前に出てきたのはヒロインたち、地底人ミミや香川花華、風波優、彼女らの気持ち、その動き。それがよかったんですね。地上の人間と結婚し子供を作るために地底からやってきたという、そのわりに恋愛とか男女のことにやたら疎いミミ。またハナも優もどこか恋愛について奥手で、そんな彼女らが女子力、良介と一緒に過ごす中で、彼に対する恋心を少しずつ膨らませていくんですね。

ハナも優もかなりの美少女であると思うんですが、本人はその自覚がない。ないどころか、むしろコンプレックスを持っていて、ハナに関しては、優が寄ってくる男子をことごとく撃退していくものだから、自分はモテないと。地味で魅力もないと思い込んでいる。優に関しても似たようなもので、胸の小ささを気にしている。そんな彼女らが、自然良介に引かれていったり、あるいはかわいいといわれて意識するようになったり、そうした恋心に揺れ、また自分の恋心に気付かなかったり、あるいは否定したりする様子がいじらしかったりで、大変に魅力的なんですね。

けれどヒロインはミミなんだと思います。ミミは良介と結婚するといって地底からやってきた。もしふたりが結ばれなければ地底に帰って、二度と地上にくることはないだろう。そうした背景を持っているんです。あまりに常識からかけはなれていたりするミミだけど、良介といつも一緒にいたい、そうしたところをわずらわしくも思われたりするミミだけど、けれどただただ良介に気持ちを向けて、ひとりになれば寂しさに良介を探しにさまよい出て、そうした様子はさすがに健気で、そりゃ良介だってほだされるよな。そりゃ当然、気持ちだって揺れるよな。ええ、このふたりの不器用というか無自覚というか、その恋する気持ちのすれちがったり、時に寄り添ったり、そうしたところに強く魅かれているのです。

さてさて、1巻後半には新たな地底人、タマキなんぞも登場して、彼はミミの婚約者というんですが、彼の扱い、そいつが詫びしかったり悲しかったりしまして、けどタマキもまた悪くないんですね。ほのぼので、けれどちょっぴり切なくて、そうした恋心の描かれるこの漫画に、ひと味添えるタマキの存在。悪くないじゃんと、気にいっているのであります。

ああ、一番気にいってるのは、風波さんです。いや、一応いっとかないといかんかなと思った。

  • 津々巳あや『乙女ほるもん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2013年。
  • 以下続刊

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