やしきたかじんというと、指し棒もってパネルをばんばん叩く、司会者なんだか芸人なんだかよくわからない人という印象がとにかく強いわけですが、その本質はというと歌手です。私は、残念ながら歌手としてのたかじんをそれほど知るわけではなく、けどそんな程度であるというのに、私は歌手としてのたかじんが好きなんです。いくつくらいの時だったろう。『やっぱ好きやねん』が流行りましたけど(もしかして関西だけ?)、私はこの歌が好きで好きで、だから私にとってやしきたかじんという人は、なにをおいてもまず歌手であります。そんなたかじんの歌手としての節目、五十歳の誕生日にもよおされたコンサートのDVDが出ています。私はずっと前からこれを欲しいと思っていて、そしてようやっと手にして、見て、やっぱりこの人は歌手だわと思ったんです。
歌手としてのたかじんを知らない人がこれを見たら、面食らってしまうかも知れません。とにかく落ち着きがない。マイクを持つ手は震えているかのごとく上下左右に動かされ、そのため歌詞がよく聴き取れないこともあります。屈みこむような姿勢で、頭を振り、唇をとがらせて歌うその姿は、日頃見慣れたたかじんとも、それに普通の歌手とも明らかに異なっています。けど、見始めた頃の違和感なんてものは、一曲二曲と聞いている間にすっかり吹っ飛んでしまって、そうなればもう歌手たかじんの世界に引き込まれてしまっていて、やっぱりこの人はいいですよ。力いっぱい、ありったけの気力と気持ちを込めて歌っているというのがわかります。額に汗をいっぱいにかいて、声張り上げて、その声がとにかくいいんです。いい歌を歌う。人によっては好き嫌いがわかれるのかも知れませんが、私はどうにもあらがうことさえできずに、引き込まれるまま。素晴らしい。私にとってやしきたかじんという人は、どこまでいってもやっぱり歌手であるのです。
幕が開いたとき、身を縮み込ませるようにしてお辞儀をするこの人の姿をみて、私ははっとするかのようでした。これはポーズなんかじゃありません。コンサートが終わろうとするとき、観客に向かってお辞儀をするやしきたかじん。最敬礼といっていい。私はこんなにも真摯に礼をする人をついぞ見たことがありません。スタッフに、バンドメンバーに、そして観客に礼を述べていくその姿をみて、その言葉を聞いて、胸が熱くなりました。この人が普段見せない姿に、この人の真実の一面をかいま見たように思い、本当、こんなに人間くさい人っていないんじゃないかと思います。破天荒で、無茶で、乱暴で、けど繊細で、ナイーブで、多極多面の魅力がこの人にはあります。おまけ映像のMCも面白かった。声を出して笑った。おまけ映像に見るたかじんはテレビで観るたかじんにより近くて、もちろんそれも一面です。ただ、世間一般の人はこの一面しか知らない。私にはそれがひたすら残念と思われてなりません。
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