kashmirという漫画家については『○本の住人』を読むまで知りませんでした。なんだかとんでもない感じの作風。ええと、いっちゃってるっていうか、普通に話を回すこともできそうなのに、要所要所に微妙にずれてきわどいところを挿入していくって感じの作風です。そんな伝統的ナンセンステールの素養がそこはかとなく感じられるkashmirの『百合星人ナオコサン』が発売されるということで、はるばるてくてく書店に買い出しにいってきました。うん、普通なら休みの日にわざわざ出歩いたりしないんですけどね。でも、この本の初版初刷にはなんと主題歌収録のCDがついてくるというではありませんか! これはなんとしても確保しなければ、というわけでてくてく書店に出向いたのであります。
『百合星人ナオコサン』は『電撃大王』にて連載中の漫画だそうで、だから結構覚悟して読みはじめたのですが、思ったより普通じゃんというのが第一印象。覚悟っていうのはつまんないとかそういうのを予想したんじゃないですよ。まだ私の理解の及ぶ範囲にとどまっている『○本の住人』とは違って、私のわからない領域に全力疾走していたらどうしよう、って心配したのですね。でも、普通。うん、普通。タイトルに百合星人ってあるから、表紙の金髪の女の子が黒髪の女の子にあんなことやこんなことをするような漫画かと思っていたらそういうわけでもなくってですね、むしろ幼女幼女っていってる……。ろくでもねえ……。いや、でも普通。至極普通。
普通というのは『ナオコサン』の方が論理的に理解しやすいという意味においての普通ですね。発想の普通じゃなさに関しては『○本の住人』の方が優れていると思います。だから普通。こうした違いが現れてくるのは、掲載されている誌風が違うからだと思うんですが、片や四コマ誌『まんがタイムきららMAX』、片やマニア向け漫画雑誌『電撃大王』。四コマとストーリーという表現形の違いも大きいのかなあ。四コマというスタイルだと四コマ目で投げっぱなしてフォローしないっていうのも可能だけど、ストーリーだとそうはいかないからなのか、ストーリーもののほうが自由度が大きいからひとつのネタを拾って展開しやすいからなのか、全般に『ナオコサン』の方が理解しやすいです。
ただ、それは決して内容が薄いというわけではないんです。内容の濃さに関してはおそらく『ナオコサン』の方が上で、コアなネタも多いように感じるのですが、だからやっぱり表現形の違いが大きいのだと思います。有無をいわせないドライブ感はどちらにもあって、引っ張るベクトルが違っているというそれだけだと思います。そしてなによりこの人のうまいなって思うところは、その引っ張り方。うまく引っ張っていってくれる、振り切って自分一人でいってしまうっていうところがない。こんなに振り回されて、脳みそかき回されてるみたいになっても、独りぼっちにされてるような寂しさ、寒さがない。この距離感というのは才能なのかなあ。すごく配慮の行き届いているような感じが好きです。
いちおう触れとこう。『○本の住人』は妹漫画、『ナオコサン』は姉漫画です。無邪気さの中になんかちょっと危ない言動が現れてくる弟くんと主人公みすずの関係が素晴らしい。具体的にいうと逆さ釣りとか往復ビンタとか、愛が感じられますね。素晴らしい漫画だと思いました。
蛇足
kashmirという人はナンセンス系ファンタジーの系譜にある作家だと思います(本気でいってます)。ちょっと目を離せない感じだぞと思っています(本気でいっています)。
蛇足2
CD、よかった。休日に出歩いた甲斐がありました(ただいまヘビーローテーション中)。これ、おまけだけにしておくには惜しいものがあると思います。
- kashmir『百合星人ナオコサン』第1巻 (電撃コミックス) 東京:メディアワークス,2006年。
- 以下続刊
0 件のコメント:
コメントを投稿