2006年8月8日火曜日

ミス&ミセス

 私にとって阿部川キネコとは、『明智クン!!』の作者であり、『辣韮の皮』の作者であり、『WAKI WAKIタダシさん』の作者であり、こうした漫画の作風こそが阿部川キネコらしさと思っているから、『ミス&ミセス』には驚きました。というのは、以前『お菓子な片想い』で書いたときの出だしでありますが、本当にこれを雑誌に見つけたときは驚きました。いや、これはちょっと事実を正しく伝えていませんね。最初見つけたときには阿部川キネコとは気付かなかった。地味だけどいい感じの漫画よねなんて感じで読みはじめて、そこで初めて作者が誰か気がついた! ええーっ、阿部川キネコなの!! やられた。正直やられたと思いました。

でも、本当にすごいよね。タッチも雰囲気もがらりと違えて見せて、これ、違う名前で描いてたらどれだけの人が阿部川キネコと気付くんだろう。それくらい違うんですよ。正直、悪乗りの粋に突入しているとは思いますが、あんまりに鮮やかだからそれが全然嫌な感じがしないんです。やられたーって思いながらも、そのやられた感がすごく嬉しい。もうすっかりだまされましたわーって喜んでいるような始末で、さらに嬉しいのが、漫画としても実に面白いというところでしょう。いわゆる主婦向けを装いながら、その端々に阿部川キネコ的毒を仕込んでいるから、二重三重に面白い。この漫画が連載されている間は、本当に読者を楽しませるのが上手だなと感心しっぱなしでありました。

ジャンルとしてはなんになるんだろう。パロディ? は絶対ないとして、やっぱり女同士の友情ものと見るのが一番素直な見方なんだろうと思います。タイトルがそうと示すように、未婚者と既婚者の女性二人が主人公で、それぞれに違った生活、価値観を持ちながら、しっかりと友人関係を築いているのです。その二人の関係がすごく自然で、ありそうな感じで、それでまた二人を取り巻くできごと、婚家との関係とか、二人の他の友人とか、そういうのもまたありそうな感じで、なんだか考えさせられたり、ただただ面白かったり、そして最後にはちょっとじんとしてみたりとか、ええいどこまで真っ正直に描いてるかわからん阿部川キネコで感動なんてしてたまるものか、なんて突っ張ったりもするんだけど、だって感動しちゃうのはしかたないじゃない。本当に、懐の深い作家だと思います。

さて、私は『ミス&ミセス』以外の漫画も知っていて、それでこれに出会って、わあこの漫画すごくいいわ。阿部川漫画の中でランクをつけるなら、最上位にこれを置いてもいいなあというくらいに好きなんですが、もしですよ、『ミス&ミセス』が阿部川キネコ初遭遇だったらどうでしょう。私は多分阿部川キネコの前歴を知らなくても『ミス&ミセス』を好きになったと思います。ここで私の習性発動。きっと阿部川キネコ既刊を集めだすでしょう。問題はここですね。果たして『ミス&ミセス』しか知らなかった人が、この人の基本スタイルに出会ったときの衝撃ってどんななんだろう。

私はもはやそのショックを感じることはありませんが、人によれば愕然としたりするのかも知れませんね。そう思うと、どちらから入ってもサプライズだなあ。おいしい漫画だなあなんて思ってしまいます。

単品でもおいしい。他と合わせてもおいしい。よい漫画です。

  • 阿部川キネコ『ミス&ミセス』(アクションコミックス) 東京:双葉社,2006年。

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