今では誰もが名作と認める映画『カサブランカ』。私も何度も見ましたよ。NHKのBSがちょっと古い映画を集中的に放送していたりしましたが、そういう機会に見て、あの極めて有名な主題曲As time goes byの演奏されるシーンにぐっときて、そしてラストシーンではヴィシー水というものがあるということを覚えました。
さて、ここで重要なのは『ヴィシー水』というのがどういう意味合いを持っているかということです。実はこの映画の作られた時、フランスは敵国ドイツとドイツによって打ち立てられたヴィシー政権に分割統治されていたのでした。そしてこの映画には反ヴィシー政権、反ドイツ的というメッセージが色濃く立ちこめています。件のヴィシー水というのは、反ヴィシー政権(ひいては反ドイツ)を観客に植え付けるための小道具として用いられていたのです。
つまるところ、『カサブランカ』はプロパガンダ映画だったんですね。悪の枢軸ドイツに対抗するアメリカにおいて、国民を鼓舞し、ドイツ討ちてしやまんという思いを高めんとする目的で作られた映画であったのです。こんな風にプロパガンダは簡単に庶民の生活に入り込んできて、私たちはというとそれとわからぬうちに影響を受けてしまっているのです。その有り様たるや、まさしく『ゼイリブ』の世界なのであります。
私がこの映画をはじめてみたときは、もうとっくに第二次世界大戦なんて終わってしまっていましたから、ナチスドイツは悪として断罪されているし、連合国が勝利しフランスは開放されるということも歴史的事実として確定していたわけです。ナチスドイツは悪い奴で、巨悪に立ち向かう主人公はやっぱり正義の味方であるのですよね。がんばれ、負けるな、みたいな気持ちにもなるわけです。ですが、ドイツの評価がまだ定まっていない時期(つまり戦中)にこの映画を見ていたらどうでしょう。多分私は、同じようにがんばれ、負けるな、ナチスなんてこてんぱんだと思ったのではないでしょうか。まあ、戦中ならば日本の軍国少年であったろう私がこの映画を見る機会なんてのはきっとなかったに違いないのですけどね。
今、私たちがこの映画を見ようというときには、すっかり戦争という背景を過去に追いやって、ラブロマンスとして見るのだと思います。戦時下の危機的状況において、逃亡する二人。かつての恋人。揺れ動く心と心、そしてAs time goes by。今ではあり得ないようなきざな台詞がかっこうよくって、ノスタルジーの中にかつての憧れが浮かんでは消えるといった様子で、やっぱりこれはよいものだという気持ちになります。
よいものだから残ったのか、あるいは残ったからよいものなのか。私は前者だと思います。もしかしたら、それまでに触れてきた評価や名せりふとの触れ込みに影響されてのことかも知れないと思いながらも、やっぱりこれはいい映画なんだろうと思います。
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