2005年5月24日火曜日

Paris-Zénith

 私は一時フランスの音楽を買い集めていまして、その時の選別基準はもう目茶苦茶。洋盤のワゴンセールを見かけたら仏盤らしいものを根こそぎ買うという、そういう手当たり次第といっていいようなやり方だったのですね。けれど、意外やこのやり方は悪くなくってですね、どんな人かは知らないけれど超クール! というアルバムがうちには結構あるんです。

そんなわけで、今日紹介しますアルバム『Paris-Zénith』もそんなうちの一枚です(いや、二枚組だから二枚か)。演奏する人はHubert-Félix Thiéfaine。フランスロックバンドの、強烈に恰好いいライブアルバムです。

なにがそんなに恰好いいのか。ロックといっても実に標準的なもので、さして尖っているわけでもない、どちらかといえばおとなしい感じの演奏です。ただその歌う声がすごく魅力的。歌っているのは、さっきもいったHubert-Félix Thiéfaine。太く甘く少しぶっきらぼうでエネルギッシュな声を持つ、それこそ聴くものの心をとらえちまうような歌い手です。バンドに参加するミュージシャンそれぞれの演奏もそれぞれに魅惑的で、こうしたオーソドックスながら実力を持った音が、対立するわけでもなく、かといって馴れ合うわけでもなく、自分のやるべきことをきっちりとこなして、だからそれがクールなのです。

バンドとしてはすごくオーソドックス、けれどさまざまな要素、バックグラウンドが飛び出してきて意欲的です。ロックに、民俗曲の要素も混ざり込んで、けれどそれは古き良きものみたいな懐古調でなく、よそから借りてきたよそよそしさでもなくて、— 生きています。ガットギターのはじけるように鳴らされた音の切れと強さ、ラッパの哀愁を帯びてなお洒落っ気を見せつける粋。メキシコスタイルのマリアッチも出れば中国の楽器二胡まで出てきて、しかしこうしたいろいろがひとつの音楽的土壌にしっかりと配置されて絢爛。すごく贅沢なステージじゃないかと思います。

こうしたいろいろな要素をひとつの文脈の中で扱ってしまうというのは、ある種多様式が身近であるということか、あるいはよほどのセンスがあるか。おそらくはその両方であると思います。ロックというスタイルを基調にして、ロックらしからぬ要素までロックにしてしまうというのは、どれものスタイルを知りながら、そのどれもを特別にしてしまっていないからなのでしょう。こうした多様式から生まれる面白さというのは、ひとつところにとどまらない音楽の可能性みたいなものまで感じさせて、私はすごく興奮させられてしまいます。ああ私は、こんな風な音楽の場に臨みたいものだなあと、心から思わずにはおられませんからね。

しかしだ、こんなうだうだ抜きにして、めっちゃくちゃかっこいいんですよ。腰が抜けそう — 、ほんま、しびれますもんね。

二枚目の『Alligator 427』くらいまできたら、もう完全にこの人らの空気に取り込まれてしまっていて、なんというか、こっちの世界にいながらにしていないというか、とにかくもうあきませんわ。めっちゃくちゃかっこいいですから。

おお、そうじゃ。今度友人の二胡奏者に会うときに、このアルバムを持っていってみよう。それで、聴いてもらいましょう。

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