私が高校生だった頃、私が図書室に入り浸っていたものだから、自然私の友人連中の間には図書室に行くのは普通のことといった雰囲気が醸成されていて、銘々好き勝手に本を借り出しては読んで、けれど時には情報交換なんかもしていたのでした。そうした情報交換の甲斐あって、時にはある一定の傾向を持った本が一大ブームを巻き起こすことがありまして(といっても、仲間内だけのブームなんですが)、そうしたブームのひとつに短編集ブームというのがありました。
きっかけはO・ヘンリあたりからだったのだと思うのです。高校の英語の授業なんかのテクストとして、O・ヘンリの短編はよく採用されますが、そういうのが短編ブームの火種になったのかも知れません。いずれにせよ、短編ゆえに読みやすく、けれど内容には独特の深みがあるこうした物語は広く読まれて、人気は先にあげたO・ヘンリやモーパッサンとか。私もモーパッサンは好きで、「メヌエット」のささやかな美しさは忘れることができません。
けれど、私が一番愛したのはマラマッドの短編集でした。マラマッドはあまり知られておらず、事実私もこの短編でしか知らないのでありますが、けれどこの人の物語の切々としたさまはどうでしょう。ユーモアもあり、ほの明るさの差すときの暖かみなどは心からほうっとします。ですが、やはり基調には悲しさがあって、私を引きつけるのはこの悲しみや切なさのためなのでしょう。
著者はユダヤ系なのだそうです。そのせいでか、この短編集にはユダヤ人と彼らの過酷な運命、経験にからんだものもあって、けれどマラマッドはそうしたことをもってただユダヤ人を悲運の民族と描くばかりではなかったのです。そうした特定の民族に振りかかった災厄がモチーフに取り入れられたとしても、テーマは結局、万人がすべからく持つ弱さでありすなわち悲しさであり、生活に仕合せを求めるささやかな願い、より良い明日が来ることを信じる祈りであるのです。
悲しい物語もありますが、思わず微笑んでしまうような話もあって、私にはこの禍福が背中合わせになっているような感覚が嬉しかったのかも知れません。高校を出て、数年後には自分の蔵書に加えて、折りに読みたくなる本であります。
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