『ギタ×マン!』 — 、ギタマンっていったら普通ギター・マンドリンと相場は決まっているものですが、その後ろ半分をマンガ、すなわちギター・マンガ部にしようとは、いったいどういう発想なんだろう。あめりが入部を検討している部活、ギタマン部。友達のるっかには、ギターとマンガの部活みたいと説明していて、おや、この漫画ではギター・マンガなんて珍妙なとりあわせをやろうというのか。そう思ってたら、やっぱりギター・マンドリン部だった、のはそこまでで、そこから正式にギター・マンガ部になろうっていうんですね。いやもう、タイトルからしてギターもの、すなわち音楽ものだと思うじゃないですか。なのにここで漫画要素が入り込んできて、いよいよ迷走するのか? もちろん迷走するんですが、そしたらこれが面白くってですね、すっかりやられてしまったんですね。
あめりの誤解からはじまったギター・マンガ部。部室は保健室で顧問のやまなんは養護教諭。保健室で足湯を楽しむナイスガイ。ギターはあちこちのロッカーに、それこそ掃除用具と一緒にしまわれていて、なんという奔放な環境だろう。そう思ってたら、あとがき読んで驚きました。ああ、なんというこっちゃ。世の中ってすごいんだな。思い知りました。もしかして音楽室は吹奏楽やら合唱やらに占拠されてて、ギター・マンドリンは保健室に追いやられてたとかなんでしょうか。しかしなぜ保健室。ほんと世の中たるやおそろしい。漫画に出てくるような奔放だって普通に存在したりする、それが現実なのでありますね。いや、ほんと、びっくりした。うん、だからもう、この漫画に描かれること、もの、なんでもかんでも承認するしかないといった具合です。
さて、あめりは足湯のナイスガイに片思いして、それでもって謎のギタマン部に入部することを決めたんですね。けれどあめりの活動は漫画。やまなんも漫画ばかり読んでる。このあんまりの駄目っぷりに、私がなんとかしないと、るっかも入部を決めて、かくして漫画とギターの奇妙な同居物語がはじまろうっていうんですが、ほんと、あめりが面白いんですね。やまなんのこと大好き。描く漫画はどうにもこうにもシュール。で、BL展開もいけるみたい。腐るをあめるっていう地方があるんですってね。調べてみたら東北とか、三重でも使うみたいですけど、ほんと、ギタマン部唯一の男子部員マサとやまなんの微BL。それも踏まえて彼女の名前があめりと決められたのだとしたら、ほんと、すごいな。感心しきりでありますよ。
名前が出ましたね。マサ。男子部員。普通。とにかく普通。で、ちょろい。ほんと、彼の扱い、決して粗末ってわけじゃないんですけど、とにかく夢を見させてはもらえない、そんな悲しいポジションに追いやられていて、けれどこの子のちょろさ、惚れっぽさ? これは申し訳ないけど、共感というか、身につまされるというか、そんな風に感じる人も多いんじゃないかなあ。ほんと、彼のふとしたことに盛り上がる気持ちと、それが空振りに終わる様。うわー、自分も赤面だ。ほんと、マサ、彼こそは、読者である私の代理人だと思う。彼の失態、彼の駄目っぽさ、それらは自分のものとして引き受けて読むのが正解なのかも知れない。ああ、マサ、彼こそが私です。
もうひとりの部員、うるる先輩、彼女もめちゃくちゃ面白くて、この子はマンガ組なんですけど、ほんとはかっこいいのか、それとも可愛らしいのか、そのギャップ、浮き沈みがはげしくて、もう大好きで、そこに加わるゆもちゃん。もう完璧だと思った。
キャラクターがすごく活き活きとしているんですね。突拍子もなかったり、いろいろ唐突だったり、いや突拍子は誤解だったんですけどさ、いろいろ予想もつかない展開見せられて、翻弄されつつも、そのダイナミックな発想に散々楽しませてもらうわけなんですが、ただ展開が激しかったらそれで面白いなんてわけでもないと思うんですよね。なにより、あめりだからなんだと思う。るっかだからなんだと思う。なにしでかすかわからない、そんなあめりのやることだから面白さも際立つ。しっかりもののるっかだからこそ、起こること、的確に投入されるつっこみ、その意外さ、おかしさ、が光る。マサだから、うるるだから、やまなんだから、ゆもちゃん先生だから、この面白さがあった、そう思うんですね。そして、あの気持ちの高揚もあった。ええ、ただおかしいだけじゃない。ただ楽しかったり可愛かったりするだけじゃない。そう思ったんですね。
青春なんだろうなあ。マサが青い。そういわれてますけど、その青さは、作者の青春の投影だったりするのでしょうか。こんなことがあったら面白かった。そうした思いが、こんなことがあって面白かった。そうした気持ちの上に築かれている。そしてその思いや気持ちは、おそらくは広く共感されるものなんだろうと思うんですね。それは例えば、私がマサの赤面を自分のことのように感じるみたいに。彼らの青春、そんな紋切り型じゃなくてもいい、彼らの皆で取り組んで楽しんでいる時間、それをなにか自分のことのように思ったり感じたりする瞬間があるとしたら、それはあなたがこの漫画を存分に楽しめる、そんな素養があるということなのだと思います。そしてその素養は、意外と多くの人が持っているのだと私は思っているのですよ。
- りぽでぃ『ギタ×マン!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2015年。
- 以下続刊
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