2011年3月8日火曜日

寝ても醒めても

 なんでか気になる作家というのはあるもので、私にとって陽気婢という人は、まさに気になってしまう、そんな作家の代表であるといってよいのではないかと思われます。特段その動向を追っているつもりもないのに、ふとなにかのはずみで気付いてしまえば買わないではおられない。興味がおさえられないんですね。『寝ても醒めても』は、違う漫画を探していて見付けた。古い漫画なのかな? 買おうかどうか少し考えて、買った、そうしたらまったくの新作であったのでした。

『寝ても醒めても』、夢をテーマにした漫画です。いま夢を見ていることを理解して、夢の中で自由に振る舞う、明晰夢を取り上げて、ちょっとエロティック、ちょっとスリリング、実に面白い漫画でありました。同級生を師匠と仰ぐ少年、明晰夢を意識的に見る、その技術、ノウハウの伝授を受けているというのですが、やっとこさ見ることのできた明晰夢で片思いの女の子への思いを遂げる。その夢の話をしているところを当人に聞かれるという導入に、主人公の彼や思われている彼女、登場人物が夢の中で自分の欲望を遂げていく、そんな展開になるのかと思ったら、いやはや、全然違っていてびっくりしました。

登場人物、主人公の長野涼太、長野の師匠林、長野の思い人河内美那子、そして河内の友人富田由紀。富田由紀が強烈でしたね、腐女子的発想をする女の子で、長野と林で妄想しちゃったりする。スレンダー、前髪ぱっつんのショートヘア、眼鏡。思い切りがいいというか、突き抜けちゃってるくらい自分の興味や好奇心に素直な人で、しかしこの人がキーパーソン。謎めいた行動に、意図がまったくわからなくて、それであの事件でしょう。なんでこんなことに? そうした思いに状況を読めなくなって、いやあ、見事にやられました。

陽気婢という人は、SFの素養があったり、また今回みたくミステリっぽいのも描いたりして、そしてオカルト、怪奇ものっぽいのも描いたりして、そうした表現に独特の雰囲気、危うくて、そしてちょっとエロティック、そんな匂いがただようところがすごく私をひきつけるのですね。ええ、『寝ても醒めても』、最高でした。表題作『寝ても醒めても』はオカルト風味のミステリ仕立て。ミステリを読みつけてる人なら仕掛けを見抜けたりするのでしょうが、さっきもいいましたように私はすっかりやられて、いやあ、うまかった。『ユメノオトシゴ』はオカルト色強めですね。この2作は、自分が制御してるつもりでいたもの、けれどそいつは到底人の手に負えるようなものではなかったのだ、そうした深淵のようなもの感じさせるところがあって、ああ、これも陽気婢という人の味だと思います。そして、『エテガミ』、あふれんばかりのロマンティシズム。

ええ、陽気婢らしさを充分に味わえる素敵な一冊でありました。

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