2009年10月16日金曜日

天秤は花と遊ぶ

  あああ、『天秤は花と遊ぶ』、終わっちゃいましたね。私ね、この漫画が好きだったのですよ。『まんがタイムきららフォワード』に連載されていた漫画。舞台は全寮制の女学校。綺麗な絵、綺麗な女の子がいっぱい。ヒロインはミステリアスな美少女、愁と、元気いっぱいの女の子、謡子。ただ綺麗だからひかれたわけじゃない。このふたりの間に動き揺れる感情、それがあんまりに魅力的だったから、もう目が離せなかった。誰にも心を開いていなかった愁に、ぐいぐいと詰め寄っていった謡子があって、そしてついに愁のかぶっていた猫がとれた! それからのふたりの関係には、もうどきどきさせられっぱなしだった。ほんと、好きな漫画でした。

それだけに、終わったときにはショックでしたっけ。ほんと、予測なんてまったくしなかった。なんか不穏な動きがあるかな、そんな風に思ってたら、どんと終わって、いや、ちょっと待ってよ。ああ、もうちょっと読みたかったなあ。がっかりして、ちょっと落ち込んだりもしましたけど、だって私にとって『天秤は花と遊ぶ』は、『フォワード』で一二を争う、それくらいに好きな漫画だったんです。『天秤は花と遊ぶ』が読めてしあわせだなあって、いつも思ってた。それが、ねえ。ああ、あの日私は、ちょっとだけふしあわせになったんです。

けれど、悪いばかりでもないんです。この漫画最大のギミックである、愁の吸血症。18歳になるまでに摂取した血液の、男女比率によって愁の性別が決定されるというものなのですが、最終話において愁はきちんと自分はどう思って、そしてこれからどうしたいか、結論を出しているんです。その思いはおそらく成就するだろう、そうした予感をさせる要素もちゃんと劇中に用意されていて、それだからこそ惜しい、もったいないとも思うのですが、しかし中途半端に投げ出されたというような感覚はありません。ちゃんと拾われるべき感情が拾われていたというところは、すごくよかった。苦しんでいる愁のもとに、駆け付けた謡子。そのシーンには胸を射貫かれる思いで、そしてそれからの展開には身悶えせんばかり。ええ、いいラストであったなと思う。その気持ちは確かであるのです。

いいラストであったという、それはラストに向かっての流れが丁寧に描かれていたからなのでしょうね。愁を中心とした感情の動き。素直でないながらも彼女が謡子に傾いていたことは、充分に感じとれましたし、そうした感情の動きをフォローする周辺の出来事、蓮宮のアドバイスや愛華とリコの関係、そしてほかならぬみそらの介入などなど、そうした多くの人の思惑や行動が、愁の気持ちの流れを整えて、ラストのあの感動的なシーンに向かわせていたと思えるのですね。そして、この先に起こるだろう出来事は、描かれこそはしなかったけれど、おそらく蓮宮の過去に経験したであろうこと、そして今、彼が置かれている状況を思うと、なんとなく愁もそうなるんじゃないかなって思ったりしましてね、ええ、やっぱり愁の決意が叶って、そして愁の望みが叶って欲しいなって思うわけですよ。だから、きっとそうなるのだと、信じてしまうのです。

しかし、本当にいい漫画でした。もし機会があれば、謡子の身のまわりのことや蓮宮の過去にあった出来事なんかも読んでみたい。また、みそらの気持ちの行方も気になるし、といった具合に、思いが広がってしかたないのですね。ほんと、いい漫画でした。登場人物がみな気持ちのいい、ほんとによい漫画でした。大好きでした。

  • 卯花つかさ『天秤は花と遊ぶ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
  • 卯花つかさ『天秤は花と遊ぶ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。

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