ずっと昔のことなのですが、こととね本家におきまして、表紙で買ったシリーズと銘打ったシリーズ更新をしたいものだと思っていたのです。ですが、結局2タイトル扱っただけでストップしてしまいまして、当時は毎日、本やらなにやらの感想を書いていたわけでなく、それで延ばし伸ばしにしているうちに、勢いがそがれてしまったのですね。けれど、もし今、かつてのかなわぬ思いもう一度なんてやってみても、当時と違って買っている本の数もずっと多いし、それに伴い表紙買いも増えているわけですから、やっぱり無理っぽいな、なんて感じがします。
『フスマランド4.5』は、まさしくかつての表紙で買ったシリーズで紹介された一冊で、ですが当時は文字だけの更新でしたから、肝心の表紙がどうであるかをお伝えすることができず、それがちょっとした心残りであったのです。けれど、今は違います。お試しBlogはAmazonの協力を得て、表紙絵を紹介することが可能であるのです。
また眼鏡かよ! だなんておっしゃらないでください。確かに眼鏡ですけど。ですが、ここで注目すべきは眼鏡ではなく、正面向いてこちらを見つめている、その構図なのです。どうも私はこうした目に弱いようでして、そう、表紙で買ったシリーズとは、こちらを見つめる表紙シリーズでもあったというわけなのです。私は、表紙にてこちらをまっすぐに見つめる嘉智子に文字通り魅入られるようにして、この漫画を手にしたのでした。
非常にオーソドックスな少女漫画です。異世界ものといえばいいでしょうか、女子寮の一室、四畳半の和室の押し入れが異世界に繋がっていて、その異世界がフスマランド。いわばおとぎの国、妖怪、魔物や童話の世界の人たちが、勝手気ままに楽しく暮らしている世界です。そしてフスマランドに迷い込んだカチコは、絶世の美女にその姿を変えるのです。
けれど、この漫画のみるべきところは、ともすれば楽しげで、どたばたとしたフスマランドにあるのではなく、あくまでもこちらの世界で暮らし、悩んだり迷ったりしているカチコそして星也にこそあったと思うんです。カチコは星也に憧れていたけれど、星也が心のうちに抱えていた悩みや苦しみには気付いていなかった。カチコがようやく星也の心の真実に気付いたその時は、手遅れ一歩手前。世界に背を向けるように閉じてしまった星也を呼び戻すべくカチコは星也のもとに駆けつけて — 、その場面が本当に素晴らしかった。カチコは星也に呼びかけるも、フスマランドにおける美しいカチコに星也は心を開かない。ゆえにカチコはフスマランドでの姿を捨てるのです。それは自分自身に向き合うことに他ならず、そしてカチコは自分自身を受け入れ、星也を救うにいたるのですね。
少女漫画における一大テーマとは自己を承認するプロセスであるだなんていいますが、それは結局、憧れのあの人に選ばれるというかたちでなされることも多く、僕はそのままの君が好きだよってやつですよ。他力本願といいますか、他者によってなされた承認を後追いするかたちでしか自己承認を果たせないような話も珍しくないんです。ですが、カチコは紛れもなく、自身の力で自己を勝ち取っています。そこがよかった。カチコがかつてのみじめだった自分を乗り越えるラストシーンに物語は集約されて、感動的で、なにより美しかった。そう、確かにカチコは凛々しく美しい女性であるのだと、そう思わせる、屈指の名シーンであったと思います。
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