2007年10月15日月曜日

鯛という名のマンボウ アナゴという名のウミヘビ — 食品偽装の最前線 — 魚・肉・野菜・米

 この手の話は正直今更という感じもしないでもなく、というのも私のうちは昔から自然食やってまして、食品添加物であるとかの問題を指摘する(ないしはあおり立てる)ような本、資料は子供の頃からたくさん読んできたものですから。なんで自然食やるようになったかというとひとえに私のせいなんですが、アトピー性皮膚炎やらいろいろやらかしましてね、そしたらそうした問題の根本に食の問題があるというじゃないですか。母は弱って困って参ったんだと思いますが、こういった経緯で自然食に取り組むことになったのでした。だから食品添加物やら農薬やらそうしたものの危険性は、当事者である私自身も理解していて、近所の谷口さんの誕生日パーティだったかな? にお呼ばれしたときのことですが、お母さんが子供にジュースを振る舞おうとされて、忘れもしませんファンタ・グレープでした、ところが私はそれをきっぱり断り、それは私の体に良くないからお茶をください。なんか嫌な子供だな。谷口さんの誕生日ということは、多分小学一年くらいの話じゃないかな。いずれにせよ、そういったことに関しては、特に関心持つまでもなく、自然に知っているというような感じであったのです。

けど、それでも買いました。なんでかというと、書店で手に取って読んでみたら、結構読ませるんです。ちょっと煽る嫌いもないではないけれど、代用魚や食肉偽装など、昨今話題になっている食の安全、業界への不信に対する情報をうまくまとめて、それに話のもっていき方が面白い。テレビのワイドショーではないけれど、名前は明かせない情報提供者、つまり業界関係者ですね、からの聞き取りを、生々しい語り口を残して紹介しているというそのスタイルは、なんだかなあ、ほんとかよと思わせながら、けどあながち嘘でもなさそうだというあたりをうまくつくんですね。そうした関係者の談話のあとには、こんな話がある、こんなことがなされているという例がばんばか紹介されて、それらは別に真新しい話ではなく、白身魚はナイルパーチかメルルーサ、流通するシシャモの多くはカペリンという別種の魚とか、聞いたことありますでしょう? そうしたあちこちで耳にする、それこそ見知ったなじみのことが出てくるから、実際他の話にしても本当なんだなと思います。というか、本当でしょう。

でも、私は代用魚の問題はそれほど深刻ではないと思っています。深刻ではないというのは代用魚の使用であって、代用魚で偽装ではないですよ。シシャモの例なら、カペリンをシシャモといって売るから駄目なんであって、最初からカペリンですといったらいいんですよ。メルルーサだって、鱈といって売るからいけない。こうした偽装をおこなうというのは、カペリンやメルルーサでは売れないからなんだそうですが、でもそれは騙している限りは永劫解決しない問題ですよ。水産資源には限りがあり、枯渇が現実的な問題となっている以上、新たな資源を開発するほかないというんだったら、私は海ヘビでもナマズでもブラックバスでも食べますよ。貧乏人は麦を食えじゃないけど、裕福でない私は文句いわずに代用魚で我慢します。ただ、それと知らされずに食べさせられるのはごめんだから、業界あげて周知して欲しいもんだと思います。そうした正の方向への努力をせずに、どうすれば誤魔化せるか、だませるかという負の方向にばかり努力するというのは本当勘弁して欲しい話だと思います。

この本にも出てきますが、先達て問題となったミートホープの食肉偽装だって、それをきちんと表示さえしてくれれば、私は構わんと思っているんです。サーロイン風、でも中身は豚と鹿と兎。豚ならともかく鹿や兎なんて食えるかっていう人もいるかも知れませんけど、フランス料理店でジビエとかゆって出されれば、そんなもんかと思ってみんな食うじゃんか。それこそ、プリンに醤油でウニ(バニラのフレーバーが微妙らしい)みたいなB級色が漂ってるくらいでちょうどいい。ちゃんとした肉は高いんだ。だからこれは屑肉盛り合わせ、けど見た目はステーキ肉。ちゃんとした肉食べたければそれなりにするもんだよっていうのを、業界も消費者も諒解しとかないといけない。ところが現実はそうはいかず、消費者は安かろう悪かろうを承知で安価安価を求めるものだから、真っ当な質を妥当な価格で提供する業者は立ち行かなくなって、結果、魑魅魍魎みたいなのばっかりが残るという、まさしく悪貨は良貨を駆逐するですよ。食品だってそうなんだろうけど、製造業だってそうですよ。本当、いつから日本人は正当な対価を払えなくなったんでしょう。無形の価値に対して出し渋るのは昔からだけど、有形の価値にまで出し渋るのは正直やり過ぎ以外のなにものでもなく、そうして業界、消費者がお互いに首を絞めあってるような状況の末が今なんだろうと思います。

微妙にエキサイトしてますが、けど代用魚、代用肉あたりではまだ笑えるんです。魚の話なんて、読んでりゃお腹が空いてきますからね。けど添加物のくだりとなるとしゃれにならんなあというほかなく、正直ありえんわ、首をかしげながら読むばかりでした。

ちょっと例を挙げると、まあこの辺は皆々様もご承知でしょうが、養殖畜産の現場における抗生物質投与であるとか、結構ハードです。風邪をひいた子供がハマチの刺し身で回復するとか、使いすぎの抗生物質が耐性菌を生み出す土壌になっているとか、本当、人間は自分で自分の首を絞めている。他にもいろいろあって、ほら、最近胸の大きな女の子が増えたなんていいますが、これ、成長促進目的で家畜に与えられるホルモンが問題だなんていいますよね。SNS大手のmixiでは胸の大きなことに悩みを持つ女性のコミュニティがあって、そこでこうしたホルモン投与に関する問題が真剣に語られていたことを思い出します。こうした異常を引き起こす食肉を摂取した結果、小学生くらいで胸が大きくなる男の子がいるとか、数年前から現実的な問題としてクローズアップされているわけですよ。

そして、この本の扱う内容はよりディープに、薬剤で死なない菌や虫を駆除するために放射線照射がなされているとか、しかもそれが催奇形性を有するという実験結果があるとか、そのためアメリカは一旦研究を取りやめたんだけど、日本では一部で使用されている。今ではアメリカでも、その他諸外国でもやっているとくれば、私らは一体なにを食べればいいんだろう。以前、『美味しんぼ』でも取り上げられたことがありましたが、輸入柑橘類のポストハーベストも尋常ではなく、その危険性は私が子供だった頃からいわれ続けていますが、いまだに状況は変わらず。そして、ここに最近話題の遺伝子組み換え作物がきて、気分はもう八方塞がりです。

まあ私は遺伝子組み換えイコール悪とは考えていないのですが、というのは私らは食品食べてその遺伝子を摂取しているわけではありませんから。遺伝子を組み換えて、人間に毒性を持つようになればそりゃ大問題ですが、そうでない場合はどうなんだろう。私らは三食豚カツ食べても豚にはなりませんし、米を食べても植物にはならんわけです。でも、BSEの異常プリオンの問題もあるからなあ。最初私は病原性蛋白質という話を聞いた時、信じられなかったんです。だってね、蛋白質って消化酵素の働きによって分解され、アミノ酸として腸から吸収されるというんでしょう? だったらその異常蛋白質が脊髄や脳に蓄積されるってどんなメカニズムよ、どこをどう通って脳までいくのよ、とか思ってたんですが、どうやらこれは事実らしい。だから私は遺伝子組み換え作物に関しても、もしかしたら安全性に問題があるのかも知れないという可能性を捨てていません。大げさに考えたりはしてませんけど、一応ね。

あんまりに長くなったので、ちょっとだけ引用してこの記事を終えたいと思います。「第五章 米編 知らないうちに外国産ブレンド米」からです。

カビの発生や虫の被害を防ぐため、米には薫蒸剤が使われてきた。[中略]米などの穀物燻蒸には、有機塩素系の殺虫・殺菌剤「クロルピクリン」(一九四八年に農薬登録)の使用が認可されている。

[中略]

クロルピクリンは「化学兵器禁止法」で、第二種毒性物質の指定を受けているから、まさに化学兵器そのものだ。

調べてみましたら、確かに載ってます。クロルピクリンではなしに、トリクロロニトロメタンという名称で、化学兵器禁止法上の第二種指定物質に表示されてますね。定義を見ますとこんな感じ。

この法律において「毒性物質」とは、人が吸入し、又は接触した場合に、これを死に至らしめ、又はその身体の機能を一時的若しくは持続的に著しく害する性質(以下「毒性」という。)を有する物質であって、化学兵器禁止条約の規定に即して政令で定めるものをいう。

さらにもういっちょう。

この法律において「第一種指定物質」とは、指定物質のうち化学兵器以外の用途に使用されることが少ないものとして政令で定めるものをいい、「第二種指定物質」とは、第一種指定物質以外の指定物質をいう。

これ読みますと、日頃は化学兵器以外の目的で使われているけど、その気になったら兵器としても使えるから扱いには気をつけようね、ってことだと思うんですが、それをまさに化学兵器そのものと言い切っちゃうのがいわばこの本の味であって、また叢書名にブラック新書という胡散臭さ満点の名前をもってくる晋遊舎の味であると思います。

こんな感じでちょっと煽り気味の嫌いもあるし、著者もいうように、業者という業者がすべてそれをやってるわけではないという前提を外してはいけないけれど、それはそれとしてこういう実態が現実的に存在しているということ、そしてそれはおおむね広くおこなわれている模様ということは知っておいたほうがいいんだろうなと、そういう感じです。けど、実際、しびれますわ。まさしく逃げ場なし! って感じ、ひりひり焼けつく感じがしますね。

引用

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