2005年10月27日木曜日

帝都雪月花 — 昭和余録

 『帝都雪月花』と書いて、『ていとゆきつきはな』と読むのだそうです。作者が書いてました。作者、辻灯子。私はこの人の大いなるファンでありまして、例えばそれは、私が今までここで書いてきたことを振り返っていただくだけで充分証拠となりましょう。だから、今日、『まんがタイムきらら』系の単行本が出るこの日、私が取り上げるのが『帝都雪月花』と見抜いていた人は多いのではないかと思います。

『帝都雪月花』の舞台は、昭和二年の東京。そう、私が好きだという時代ですよ。私は以前いっていました。明治大正という時代の躍動を見るのが好きって。昭和二年は確かに不況で、取り付け騒ぎやらなんやら、時代の混乱は社会科の教科書、グラフでも見たとおりです。ですが、そんな暗い時代でも、どっこい元気に生きていた。『帝都雪月花』には、そうした元気が見え隠れするから私はどうにも好きなんですね。

『帝都雪月花』は四コマとしては異色であるといってよいかと思います。妙に色濃く描かれた時代のディテール。昭和二年という時代を、史料をひもとき、その史料をもって背骨とし、なかったことをあったことのように肉付けしていこうとするかのごとき情熱。静かながらもしっかと一本筋が通っているようで、私が好きだというのはこうした気骨に対しても同じであります。

けれど、あくまでも四コマとしては異色で、四コマというフォーマットの気楽さ、テンポのよさを犠牲にしていて、だからある種通好み、マニア向けの様相を呈しています。けど、私はそれでいいんだと思う。わかりやすさだけ、単純さだけが四コマではないぞ。ちょいと読み解きにつきあおうかねといった風情があってもいいじゃないかと、この漫画を見れば思うはず。少なくとも私はそうした口で、仕掛けを読み解きながら、個性的で気持ちのいい風が吹きつけてくるような人たちのコメディを楽しみたいと思って、ええ、これは非常に良質の漫画であると思っています。ええ、だからもうちょっと楽しんでいたかったかもなんて、そんな風にも思っています。

蛇足

恒例の蛇足ですが、もう野暮なこといいっこなしですよ。

私は、辻灯子の描く、すかっと気持ちのいい女性たちが大好きです。

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