2005年10月19日水曜日

薔薇の名前

 薔薇の名前』はウンベルト・エーコの著した小説で、世界的ベストセラー。日本版も上下分冊で出ていて、私はこの本を買って、読んで、映画はだめだ、浅いみたいに思ったのですが、これはちょっと誤っていたなと、この度映画を見直して反省しました。

映画『薔薇の名前』は、ジャン=ジャック・アノーが丹精込めて作り上げた映像美の世界であり、中世の修道院を現在によみがえらせようというかのごとき情熱は素晴らしく、それだけでも充分評価するに値するものです。DVDは実に私好みで、音声解説もドキュメンタリーもついていてうはうはなんですが、監督自身による音声解説によれば、アノーは修道院大好き少年だったのだそうです。私はこうしたエピソードを聞いて、中世の断片が随所に残されたヨーロッパへの憧れを今まで以上に強めて、ええ、私はあの中世の空気が好きなのです。住みたいとは思えない時代ですが、ですがあの世界の根底には今の私たちの時代の精神になんら変わらぬものが流れています。それも濃密に!

私がこの映画をはじめてみたのは、高校生のころでしたでしょうか。NHK BSだったかで放映されて、けどあの時は途中で寝てしまったのですよ。だから本をめぐる物語であるとか、そういうことは全然わからなかった。もう、本当に序盤で寝てしまったのだと思います。

これを再び見た時にはすでに大学に上がっていて、私がこの映画にばちーんっとやられたのはまさにこのときですよ。濃厚に描かれた中世がうっそうとして、もう鮮烈に鮮烈を極めてびりびりしびれました。そして犯罪をめぐる状況というのが振るっていました。あの、ウィリアムが真犯人と対峙したあのシーンの緊迫感。罪を犯してでも守り抜きたかったものとその理由! 最高です!

けど、あの謎の渦巻く迷宮に関しては、やはり本に譲ります。いや、本で表現できることと、映画で表現できることはもとより違うのであるからして、それを突っ込むのは無粋でしょう。

私が映画に感じる不満は、あの憎むべき異端審問官(彼は傲慢の罪で地獄に送られたことでしょう)の扱いと、そして妙に甘く、ハリウッド風味になってしまったラスト直前のあのシーン。私は原作を読んだときに、うわあ、ハードにしてドライって思ったものでしたが、ですがあれが現実なんだろうと。だから、映画のラストに関しては、ちょっとロマンティックが過ぎるなという感想です。

この映画を見る人は、原作もあわせて読むべきです。映画の理解が大きく違いますし、また映画が本では想像しきれなかった部分をしっかり肉付けしてくれることでしょう。

映画を見、本を読み、また映画も見、音声解説もドキュメンタリーも見て、心を中世にすっ飛ばしてしまうくらいにはまるのがお勧めです。

  • エーコ,ウンベルト『薔薇の名前』上 河島英昭訳 東京:東京創元社,1990年。
  • エーコ,ウンベルト『薔薇の名前』下 河島英昭訳 東京:東京創元社,1990年。

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