まだ巫女萌えもアンドロイド萌えもなかった頃、そもそも萌えという表現がなかった頃、まあ今から考えると言葉がなかっただけでそうした感情はすでに萌芽していたとは思うのですが、といきなりなにをいいだすのかというと、久しぶりに手にした『(有)椎名百貨店』というのが、実にそういう感じであったのですね。原初の萌えへの傾きが感じられます。
『(有)椎名百貨店』というのは、『GS美神極楽大作戦!!』で一躍ブレイクした漫画家椎名高志の初期短編集で、私はこの短編の時代が一番好きでした。ちょっと昔の漫画っぽい情感があって、けれどおたく・マニア傾向も充分に備えていて、そういうあいまいなグラデーションの時期に揺れていた椎名高志の表現が好きでした。
「長いお別れ」は、そういう時期に書かれた短編で、実のところ私はそれほど好きな漫画ではありませんでした。というのもですね、基本的に私はエロ交じりのギャグを好きませんで、いや、ものによっては嫌いじゃないのですが、なんつうんでしょうね、そのエロが男のエロであればあるほど嫌いというか、そういう意味では椎名高志のエロは私の好みからはかなりはずれていて、だからそういう傾向を一気に強めた『GS美神』はだめでした。
ですが、「長いお別れ」に関しては、好きになれない要素があるといいながら、けれどそれでも嫌いではありませんでした。未来の世界から訪れた使者が、恐竜の群れの再生を願い、過去から、その時代その時代の巫女の手を借りつつ、フタバスズキリュウを送り届けようというストーリー。基本的にはギャグです。なのですが、ところどころにみせるシリアスが叙情的によくきいて、特になぜ恐竜を遺伝子レベルではなく生体で運搬する必要があったかというその理由には、ある種の感動さえもよおすほどでした。
以下にネタバレ:
フタバスズキリュウが歌う、群れに固有の歌。歌は後天的に習得されるものであるため、歌を伝承させるためには、生体である必然があった — 。
この想像力の豊かさ。私は、この発想にこそ打たれたのでした。
本当は、こんなところでつまらないネタバレをしてしまうんじゃなくて、ぜひなにも知らない状態で読んでいただきたかった。けど、これらはもう絶版しているんですね。
いい漫画だったのに、いい漫画だったのに。
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