2004年11月2日火曜日

ソーサリー

 昔、コンピューターゲームが今よりももっと一般的でなかった時代、ゲームブックというのが子供たちの間で人気で、もう猫も杓子もゲームブック。いたるところでステータスシートに書き込みしながら、さいころを振りページをめくったものでした。

今の人は知らないかなあ。番号を付けられた短文がたくさん用意されていて、その番号をたぐりながら読み進めていくことで、物語を楽しむことができるという寸法です。そう、ちょうどこんな具合!

318君の目の前には古びたテーブルが置かれていて、その上には小箱と錆びたナイフが無造作に投げ出されている。小箱にはいかにも頑丈そうな金属の留め具がつけられていて、とても開けられそうにない!

テーブルをもっとよく見てみるなら243、小箱を調べるなら69、ナイフを手に取るなら102へ進みたまえ。

ゲームブックが流行したのは私が小学校の高学年から中学校を卒業するくらいまでの時期でした。ドラゴンクエストが発売されRPGの認知度が高まりつつあった頃でもあり、剣と魔法の世界というのが日本の子供にもぐっと親しみを持って感じられるような時代が到来していたんですね。子供が買うには高いコンピュータゲームとは違い、ゲームブックは文庫本価格というのもまた嬉しいところでした。お小遣いを貰ったらゲームブックを買って、友達と回し読み(回しプレイ?)をしたものです。いや、本当に懐かしいです。

私が最初に買ったゲームブックというのが、まさにこのソーサリーを構成する一冊『七匹の大蛇』でありました。いや、もう遊びましたね。遊びまくったおかげで、なんの危険を冒すこともなくすべての蛇を始末することができるようにまでなりまして、いや本当に遊び過ぎるくらい遊んだものです。

ゲームブックは普通、一冊でひとつの冒険が終わるのですが、ソーサリーは四部作の大作でした。一巻目の『魔法使いの丘』が終われば『城塞都市カーレ』へと進み、『七匹の大蛇』を経て『王たちの冠』で物語が完結します。それぞれの巻での達成度によって、次巻でのスタート地点が変わるんですよ。より目標を達成して終われば終わるほど、次の物語が有利になるようにできていて、どうすればよりよく次に持ち越せるかを考えて、ほんと熱中しました。本のへりがすり切れるくらい遊びましたよ。

この興奮のゲームブック『ソーサリー』シリーズが、なんと現在新訳にて刊行中ということをついふとしたことで知りまして、旧訳を引っ張り出してきて遊んでみるか、あるいは新訳にチャレンジしてみるかなんて、そんなことを思いかけてるんですね。いざはじめればやめられなくなるのは火を見るよりも明らかで、でもそうせずには居られないだけの魔力を持った本なのです。

文体、挿し絵、物語世界、すべてがきらきらと輝いて思い出されるがようですよ。思い返せば、私の魔術師への憧れというのはこの本から始まったのかもしれない。戦士よりもはるかに強力で魅力的な魔術師像は、まさにこの本によって育まれたものと堂々いうことができます。巻末の魔術書がどれほど子供だった私を甘くくすぐったことか! ああ、本当に遊びたくなってきちゃいましたよ。

  • ジャクソン,スティーブ『魔法使いの丘』安藤由紀子訳 『ソーサリー』1 (創元推理文庫) 東京:東京創元社,1985年。
  • ジャクソン,スティーブ『城砦都市カーレ』中川法江訳 『ソーサリー』2 (創元推理文庫) 東京:東京創元社,1985年。
  • ジャクソン,スティーブ『七匹の大蛇』成川裕子訳 『ソーサリー』3 (創元推理文庫) 東京:東京創元社,1985年。
  • ジャクソン,スティーブ『王たちの冠』高田恵子訳 『ソーサリー』4 (創元推理文庫) 東京:東京創元社,1985年。
  • ジャクソン,スティーブ『シャムタンティの丘を越えて』浅羽莢子訳 『ソーサリー』1 東京:東京創元社,2003年。
  • ジャクソン,スティーブ『魔の罠の都』浅羽莢子訳 『ソーサリー』2 東京:東京創元社,2003年。
  • ジャクソン,スティーブ『七匹の大蛇』浅羽莢子訳 『ソーサリー』3 東京:東京創元社,2004年。
  • ジャクソン,スティーブ『諸王の冠』浅羽莢子訳 『ソーサリー』4 東京:東京創元社,2005年。

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