『NIGHTMARE MAKER』、結構前の漫画だったんですね。2009年から2012年。連載開始はもっと前になりますよね。書店にて表紙は見ていた。ということは、タイトルも知っていたんじゃないかと思うんですが、内容はさっぱり知らなくて、それを最近になってちょっと知る機会があった。ほう、面白そうなんじゃないかな? 試しにどーんと買ってみまして、そうしたらこれが面白い、先が、事件の顛末が気になって、最後まで一気に読んでしまいました。ジャンルとしてはSFといってもいいのかな? 理想の夢を見せてくれる機械が引き起こしたトラブル。いつ絶望的なことになるのか、心配で心配で、ハラハラしながら読みましたね。
好きだけど、振り向いてくれない女の子との恋愛状況を見たい一心で、またその好きな子を喜ばせたい一心で作り上げた夢見装置。けれど、製作者である内田少年が見るのは悪夢ばかり。あの子といいことをしようとしても、どうしても望んだ結果にはいたらず、なにが悪いのかと、データをとるため級友に貸し出したのがまずかった。
機械が見せてくれる、理想の夢。それは自分にとって都合のいい展開で、気になる女の子とも、後腐れなく性交渉を持つことができる。あるいは、それまで思いもしていなかった自分の欲望に気付かされることになる。めくるめく夢、それはあまりにも甘美に過ぎて、のめり込むものが続出し、次第に夢と現実の区別が曖昧になっていくものも出始めて — 、というのが基本的なストーリーです。
掲載された雑誌の特性もあるのでしょう、基本エロが多い漫画です。男子にせよ女子にせよ、願う夢は性に関するものが多く、また現実において一線を越えてしまうのも性的なことが中心。夢にセックスを見て、それが現実に流れ出てしまって、それがね、もう結構絶望的で、なるほどタイトルにナイトメアとあるわけだ。けれどたとえそれが現実において悪夢であろうとも、自分の夢というプライベートにおいては、快楽でもなんでも追求したくなるというのもわかる。わかるからこそ、現実感を喪失して、その夢の出来事を現実においても実行してしまう危うさというのも、実感として理解できるんですね。
誰しもが持っている、反社会的で独善的な願望。けれどそれは社会においてはとうてい許されるものではないとわかっているから、誰も、私も、それを実行には移さない。しかし、もしその歯止めがなくなってしまったらどうなるんだろう。ふとした意識の緩みが、社会規範から踏み外させて、そうなれば後は破滅しかないんじゃないだろうか。ときに現実味が薄らぐことがある私にとって、それはわりとリアルな恐怖であり、この漫画にはその恐怖が描かれていた。ある種、作り事ではすまない風合いがあったのです。
ちょっとネタバレになるけれど、養護教諭、彼女の放埒ぶり。正直なところいって、この人はわりと最初っからタガがはずれてたよなあ。まず間違いなく、毎回挿入しなければいけないエロシーン、そのためにああいう性格が与えられていると思うんですけど、いやもう、もともと欲望にわりと忠実で、またその反社会的な欲望に、皆に愛される教員になりたいという昔からの夢が都合よく合成されちゃったせいで、誰よりも夢にのめり込み、取り返しのつかない行動に走ってしまった。
タガのはずれた人、反社会的行動に走った人は、この人以外もたくさんいたんです。それこそ欲望や悪意が渦巻いて、誰かを陥れようとする、状況を利用し自分の欲望を現実においてもはたそうとする、それこそ胸糞悪い展開、描写はいくつもあって、ああ、こいつらにはなんらかの落とし前、報いがあって欲しい。そう思ったんですが、いい目だけ見た反社会的キャラクター、幾人もいましてね、くっそー、けどこれがある程度のリアリティってやつなのかも知れねえなあ。ほんと、死ねばいいと思ったクソキャラクター、のうのうとしてるのがいますからね。ほんと、許されんわあ。
問題の養護教諭は違うんですよ。この人には悪意はなかったんです。純粋な欲望が発露した、そういっていいのはこの人くらいなんじゃないかなあ。逃避じゃない。悪意もない。ただただ、自分の欲望を追求してしまった。これ、アディクトってやつだなあ。薬物常用とか乱用とか、まさにそういう問題がこの人に集中して描写されていて、他の連中も多かれ少なかれそうであろうけれど、最も強烈だったのが養護教諭だった。でも、これ、夢見装置とやらの、夢と現実の境界を曖昧にしてしまう性質を思えば、誰しもが陥る、そんな状況が描かれていたと思っていいのだと思う。酒に溺れる、ギャンブルにはまる、ときに歯止めを失い、人生を破壊するほどに過剰にそれを求めるように、夢が叶えてくれる欲望にとらわれ、現実にその欲望の解消を持ち込まないではおられないほどに過剰に求めてしまった。そんな彼女の描写こそは、人の弱さ、そして依存症の残酷さをこれでもかと見せてくれるものであったと思うのです。
夢見装置の悪夢を通して、現実に抱えた問題を解決し、発展的な未来に達することができたものがいると思えば、取り返しのつかない、あまりにも残酷な状況に置き去りにされたようなものもいて、正直やりきれない、そんな思いも残る漫画でした。その後味の悪さは、主人公の得たもの、一見してハッピーエンドであり大団円を迎えたと見える、そのラストにおいて、犠牲者そして加害者の存在がぬぐいとられたように表に出てこない、問題化しないところにあると感じています。悪意をもって行動し、人を陥れようとした結果、自分自身が犠牲となった。そうしたケースならまだしも、本人にはなんの瑕疵もないのに、酷い目にあわされてしまった、そんなのはやっぱり読んでいてつらい。その人たちに、なんらかの報いはあったのか? その人たちにとっての救済とはなんだったのか? など思えば、彼、彼女らの犠牲の上に成り立った内田のしあわせ、あいつの笑顔を見るごとに複雑な思いが沸々と湧き出てくる。ああ、こいつこそが怪物なのだ、こいつこそが悪夢の源泉だったのだ、そう思わないではおられなくなるんですね。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第1巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2009年。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第2巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2010年。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第3巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2011年。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第4巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2011年。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第5巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2012年。
- Cuvie『NIGHTMARE MAKER』第6巻 (ヤングチャンピオン烈コミックス) 東京:秋田書店,2012年。
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