2014年10月15日水曜日

あの娘にキスと白百合を

 KADOKAWA半額祭りの余波はまだ続いていますよ。おすすめをうけて買いました。『あの娘にキスと白百合を』。タイトルからして、なるほど百合か! 期待して読みましたら、なるほど百合でありました。「天才さんと秀才さん」、第1話、女学校にてその美貌、その気品、勉学においても優秀、皆の信頼と憧れを集める娘、白峰あやかがどうしても勝てない相手、黒沢ゆりねとの確執にはじまるこのエピソード群。なるほど、黒沢ゆりねは天才で、白峰あやかは秀才なのであります。努力して、苦労して、今の自分のポジションを築いてきたあやかには面白くないんですよ。努力してない、適当にやって、けれどすべてで上回ってくる目の上のたんこぶみたいな女、ゆりね。そんなふたりが、なぜか不思議とひかれあって、そして辿りつく地点とはいかなる場所であるのか。いや、これ面白いですよ。あやかもゆりねも、とにかく屈折してる、一筋縄ではいかない、そんな雰囲気たっぷりで、そんな彼女らの感情の行方、すごくひきつけられますね。

しかし、この漫画、面白い、というか、構成というか、よくできてますよ。メインにあやかとゆりねを置いて、そしてサイドにも多様な関係を配置していくというその塩梅。大は、あやかのいとこ瑞希と萌の物語。小はその名も「あのキス小劇場」。ちょっとした、関わりともいえないような関わりもったキャラクター、さらにはコマのはしっこにちょっと出ただけ、みたいなキャラクターとりあげましてね、こうした彼女らにだって、彼女らの物語があるんですよ。こんな人とのこんな関係、小さな恋だってあるんです。ええ、これは魅せられます。あっちでもこっちでも恋だな! そんな風にも思うけれど、でもそうした人の繋がりが彼女らの暮らす世界、清蘭学園を立体的に立体的に掘り下げて、持ち上げて、立ち上げて、その存在感の魅力たるや、ああ、なんと愛おしい。すごく魅力的な舞台を、登場人物皆が総出で作り上げられている、そんな感触があるのですね。

この感触のもととなるもの、なんなのだろう。それは、個々のキャラクターの確かさなのだ。ひとりひとりの女の子が、おざなりに、適当に、顔も名前も曖昧なモブとして配置されている、そんなことはありえないのです。この子にもあの子にも世界がある。世界をうちに抱いたキャラクターの、なんと見事にチャーミングであることか。喜んだり面白がったり、嫉妬したり、恥ずかしがったり、焦ったり、そしてやっぱり恋したり。その、人が、キャラクターが大切にされている、その頂点があやかとゆりねです。

彼女らは、確かにメインのふたりとして特別です。ふたりの、それぞれに抱えた屈折は、彼女らの問題であり、それが、特にゆりねのそれが明示されずにいることは、この子のミステリアスな魅力を引き出して、またこのわからなさがあやかを引き付けているのだろう。どうしてゆりねはそんなにあやかに固執したの? またあやかは、どうしてゆりねのことを否定しながら同時に目が離せないでいるの? 本当、この素直に、明確にならない自分の心を持て余しながらも、今自分の目の前にいるあなたを、どんどん特別なものにしていってしまうその感覚はたまらなくて、ぐいぐい引き込まれるようにして読んでしまった。とりわけ各エピソードの見せ場になるコマ、見開きに配置される決めゴマの威力すさまじく、鮮烈に現れて心をさらっていってしまう。見事だ、素晴しい。とても素敵です。

しかし、みんな可愛らしくてですね、読んでいるとたまらん気持ちになりまして、たいへん穏やかではありません。とりわけ瑞希がお気に入り、ではあるのですが、読むほどに、出てくる子ら、皆がどんどん特別になっていく。そんな感じがありますよ。ええ、特別なのはあやか、ゆりねだけじゃない。そんな感触あるのですよ。

  • 缶乃『あの娘にキスと白百合を』第1巻 (MFコミックス アライブシリーズ) 東京:KADOKAWA/メディアファクトリー,2014年。
  • 以下続刊

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