講談社は電子書籍に結構なやる気を見せていると思っていいのでしょうか。第1巻無料のタイトルをいくつか用意してくれて、冒頭のみの試し読みよりもしっかりどういう漫画であるか読んで知ることができるようになっています。よほど好みにあいそうにない、そういうのなら黙殺するのが常なのですが、ちょっとでもなにか引っ掛かりがあれば読んでしまう。ええ、時によい出会いを得ることができる、実にありがたいサービスであります。さて、一昨日に第1巻が無料になっていたのが『3D彼女』という漫画でした。少女漫画ですね。デザート連載、ってことは、ローティーンからハイティーンくらいが対象? オタク少年とリア充少女との出会いを描いた漫画。あー、こういうの最近あるなあ、そう思って、ちょっと読んでみたんです。そうしたら、いや、これ、すごくいいよ。なんだよ、これ。すっかり引き込まれてしまって、翌日には全巻購入してしまっていました。
『3D彼女』と書いて「リアルガール」と読ませるんですね。最初はですね、明るくて屈託ないギャル系彼女がオタク少年をオタクの世界から明るい世界に連れ出してくれる、そんな物語だろうと思っていたんです。いや、これがいわゆる偏見ってやつで、ええ、違った。違いました。主人公はオタク少年筒井光。彼の視点から、まったくなにをどうしたいのかさえわからない女の子、五十嵐色葉との出会いが描かれます。最初は完全に理解を超えてしまっているいろはに対し、いろいろ戸惑うわけですが、かかわりあう中で、時に苦悶し、時に間違いながらも、なにをどうしたらよいのか、してはいけないのか、そしていろはとはどういった人間であるのか、それを知っていく様が実にいいんですね。
とりわけよいと思ったのは、経験値を高めてレベルアップしていく筒井ですよ。筒井は、あくまでも筒井のまま変わらないんです。オタクで、なんか発想が突拍子もなくて、いろいろ自己完結してて、自己評価が低くて、人の心の機微とかさっぱりだから失敗ばっかりしてて、失敗してもなにがいけなかったかとかわかってなくて、こういう風に列挙するとどうしようもない駄目なやつみたいだけどさ、でもこうした欠点も含めて、筒井、いい奴だよなあ、そう思える瞬間がある。不器用で、愚直で、生真面目で、なかなか素直になれない、そんなところもあるけれど、馬鹿みたいに正直に、飾らず向き合おうとするその姿勢が気持ちいい。自分の限界を知って、不当に卑下しているとも思うんだけど、けれどいろはのために、その限界を少しずつ超えていく。そのいじらしさ、誠実さ。オタクの行動原理をうまくとらえながら、そこに咲く花、美点をよくすくいあげていると感じられて、ああ、そりゃいろはが好きになったとしてもおかしくないよな。そう思わされることしきりであるんですね。
読み進めていけば、さらにいろいろなことがわかってくる。いろはの思っていること、思ってきたことがわかる。筒井の唯一の友人、伊東のことだってよくわかってくる。誰もが、傷つきやすい心を抱えている。なんとか自分を守ろうと、決して賢いとはいえない選択もしてきた。けれど彼ら彼女らは、不器用な恋愛を通して、よりよい関係、よりよい明日、そしてなにより、よりよい自分を模索しているんだろうなってわかるんですね。そして、よりよい自分というのはなんなのか。誰からも好かれる、そんな人間像であるのか? そうじゃないというところにこの漫画の本質があるのでしょう。自分は誰かに愛されている。好きな人に間違いなく愛されているんだ。その実感があればこそ人はこんなにも強くしなやかに立つことができる。なにがあろうと揺るがず、自分であることを曲げずにいられるんだということが、ひしひしと伝わってくるのです。
すなわち筒井は迷走を続けながらも筒井であり続けるし、いろはだって同じ、伊東だってそう。なんて愛おしいやつらだろう、そう思いながら読んで、読んで、いやね、巻をまたごうという時に、次の展開をちょろっとはじめて、匂わせるのやめて欲しい! だってさ、そこで終われないじゃん! 一気に既刊全部読んじゃって、いや、ほんと、素晴しくよかった。いつまでたっても不器用な彼彼女らの、恋愛と友情の物語。互いに大切と思いあっている、その気持ちがどんどん確かなものになっていく、その過程は私をつかんで離しませんでした。読み終えて一晩たった今もまだつかまれている。その実感が確かに残っているのですよ。
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