2013年4月4日木曜日

城下町のダンデライオン

 あらためて通しで読むと、めちゃくちゃ面白いですね。いやいや、もともとからして面白い、掲載第1回の時点から、これはいいよ、そう思って楽しみに読んできたものでしたが、こうして単行本としてまとまってみると、よく考えて作られてるんだなあ。冒頭描き下ろしでいきなり1巻最終エピソードに触れて、続きは後ほど、まずは登場人物を紹介していく日常編をご覧ください。主人公は櫻田さん家の子供たち。王家である櫻田さん家の子供たちは、次の王様を選ぶための選挙を控え、各自国民にアピール中。いや、メインヒロイン茜はちょっと違う。王様になんてなりたくない。どころかとんだ人見知り、なるたけ人目につきたくないときたもんだ。各回ひとりないしはふたりずつ、国王選挙参加者、兄妹たちを紹介していって、その紹介回、なんせ9人もいますからね、じっくり展開させていくわけですが、それが実に面白い。全員紹介し終えたら、現時点の暫定順位の発表がある。さらに兄妹総出、生中継での公開対決でもって巻を閉じる。いや、もう見せてくれますよ。

この漫画の面白さは、兄妹による王位争奪戦! というのもひとつなのかも知れないけれど、それが直接対決ではなく、街中に仕掛けられたカメラでもって国民に王家の生活を見せる、そうした間接的な手法をとっているところ。王家の人間は各人特殊能力を持っており、超能力バトルないしは能力を使って事件を解決する、そうした見せ場が用意されているところ。そして、茜のように王位を狙っていない人間が複数いるというところ。こうした要素がうまく組み合わされることで、面白さがぐーっと引き出されてる、そう思うんですね。メインヒロイン、茜が典型的です。人見知り、知らない人とのコミュニケーションとか大の苦手。カメラに映るのも苦手にしていて、街中のカメラの配置を把握し、死角から死角に移動しているほどなんですが、正義感に溢れている、なにか事件があれば、困っている人がいたら、助けないではいられない。そういう性格が災いして、国民からは大人気。当人の思惑に反し、投票では常に上位にいるという — 。

思惑、感情、それが面白いのだと思うんですよ。恋あり、嫉妬あり、兄妹同士の確執あり、王位を狙う、そうした意欲に溢れる人がいれば、王様にはなりたくない、消極的なのもいて、しかも各人その理由や温度差が違っている。また、兄妹、その年齢も幅広い。長女17歳葵を筆頭に、下は六女4歳栞まで。年齢が違えば、思惑感情も当然違ってくるわけで、上の子らは結構具体的に王位というものを考えている節があるのに対し、下の子らはなんか単純に人気者になりたかったり、あとは子供っぽいヒーロー願望とか? 張り合ってる理由なんかも個人的な感情によるものだったりするんですね。中学生くらいまでの子らは見ていてシンプルなだけに面白いし可愛いんですよ。末の兄妹、三男輝と六女栞のエピソードなんかは、ほのぼのとして楽しくて、けれどばっちり見せてくれる、そんな場面もあって、あれは本当に素晴しかった。ああいうものは年長の子らでは描けないでしょう。反対に次女奏と次男遥の心理戦なんてものは年少の子では無理。といった具合に、性格、年齢、能力、王権への意欲などなど、多様なキャラクターが無理なく同居し組み合わされることで、違った見せ場、違った面白さが生み出されます。これら幅広いエピソード、その多様性をまとめているのが思惑、感情で、兄妹ひとりひとりの思ってること、感じてること、それがぴしっと通っているから、どのように展開しようと、この漫画の印象、感触は『城下町のダンデライオン』のそれであり続ける。物語の動因であるキャラクター、そこにしっかりとした基盤があるから、安心して楽しんでいられるのですね。

しかし、魅力的なキャラクターたちですよ。明確に意思を表明しているのがいると思えば、いまいちなに考えてるのかわからんのもいるんですが、ひとりひとり違った個性がしっかり彼ら彼女らを独自の人として支えているから、見ていてとても気持ちがよい。ああ、この人好きだな、このパターンなんておかしいな、そんな感情もあらば、描かれる物語も自然面白みを増すというわけで、ええ、キャラクターの力、それはたいしたものだなあ。あらためてそう思わせられるほどに魅力的です。

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