2011年9月1日木曜日

百合男子

 『百合男子』、ちょっと話題になってましたよね。なんせ、私の耳に届くくらいです。具体的に名前を知ったのは、『ゆるゆり』アニメにて流された『百合姫』のCMでだったかなあ。ゆ、百合男子!? その異質な響にちょっとぎょっとして、しかし、これどんな話なんだと興味を持ったら、作者がなんと倉田嘘。『いつか王子さまが』の人か! これは、これは買うしかないなあ! かくして購入とあいなったのでした。

しかし、これ、主人公、無駄に凛々しいなあ。表紙には思案している男、表紙めくれば、わあ、なんだ、得意気にサムアップかよ。これが啓介。百合を愛し、ゆえに苦しむ男。ただただ愛する百合的世界。しかし自分自身を顧みれば、理想的百合世界にはまったく不要な男ときています。百合を知り、百合を臨むに際して欠くことのできない主体でありながら、その存在が理想を汚してしまう。なんという不条理。かくして、啓介はひとつの結論に辿りつく。

我思う、故に百合あり だが そこに我、必要なし…

な、なにいってんの!? 兄ちゃん、大丈夫か!? そう思うんですが、いや、まあ、気持ちはわかる(ような気がする)。なんというのか、理想的世界を夢想して、しかしそこに自分の居場所などは徹底的にないのだ、それを自ら思い知らされる。誰しもあるんじゃないかなあ。私にもありますから。とまあ、こうした感覚を抱いて、絶望的な切なさに打ちひしがれたことのある人にとって、それから百合に興味のある人にとって、この漫画は強烈に作用する。そんな気がするんですね。で、人によってはその作用、共感が同族嫌悪を引き起こしたりするんだろうなあ。

しかし、この漫画、啓介、こいつは困ったやつだなあ、身につまされながら苦笑しつつ楽しむ、そんなことも可能なんですけれど、これ、実に百合もののガイドとしても読むことができる、そんなところもあって、なんとそうか、『ささめきこと』、読んどくべきだったか。加えてゲームなんかもいろいろ出てきて、いや、もう、危険ですよ。どんなもんだろうと手を出しそうになる。ほんと、ただのレビューやガイドじゃないから、そこに描かれる感情情動をともに押し出されてくる。いや、もう、たまらん、危険であるのですよ。

危険といえば、過激派原理主義とか荒れ狂う百合漫画総合スレとか、ええーっ、百合漫画総合スレってそんななんだ! いや、存在は知ってるんだけど読んだことないから、いや、でも、なんとなくわかる気がする。で、『オクターヴ』が地雷とか! いや、でも、私は『アフタヌーン』購読してるから『オクターヴ』も読んだことあるんですけど、そうか、あれ百合ものだったか。同性愛ものというくくりでは読んでたんだけど、百合ものという認識がなくて、ああ、ここに自分の百合というカテゴリー、その線引きの微妙に揺らいで違う、そういうものを確認した思いです。なるほど、ひとことで百合というのは簡単だけど、人によってそのくくり、許容や認識の範囲が違うっていうのはあるよな。それを実感させた、あの場面。で、許容度が互いに低いと荒れ狂うんだ。すごいよね、面白いよ。で、しまいには鍋が飛んでくるんだ。

いや、しかし、ほんと、面白いです。ある程度踏み込んでしまってる人からしたら、もうたまらんものがありそう。いや、受け付けないって人もいるんでしょうけど。ほら、連載当初は切り取り線がついてたとか、すごいよね。ある意味、ちょっとした冒険、挑戦だったのかも知れませんね。で、リスクをとってリターンを得た、そんな感触のある一冊ですよ。

  • 倉田嘘『百合男子』第1巻 (IDコミックス 百合姫コミックス) 東京:一迅社,2011年。
  • 以下続刊

引用

  • 倉田嘘『百合男子』第1巻 (東京:一迅社,2011年),30頁。

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