『ねこみみぴんぐす』が素晴しい。とはいうものの、はじまった当初はいったいどうしたものかと途方に暮れたような覚えがあります。ヒロイン、小春ひよりはねこみみの女の子。いや、もうなんの説明もなく普通にねこみみつけてて、いや、つけてるんじゃないよ、天然のねこみみなんだっていうね。ええーっ、これは一発ネタかなんかなのか? ひよりの友人も友人で、クールな女の子紫陽花はうさぎのぬいぐるみをいつも抱いていて、うさたんが手元を離れると取り乱してしまうし、熱血キャラ向日葵はなぜかヘッドホン標準装備。こんな一癖も二癖もある、というかありすぎる娘たちの卓球部活もの。どうなんだろうなあと思っていたら、これが面白い。癖のあるキャラクターで読ませるのかといえば、そうじゃない。部活ものとして真っ当に面白い。これは、これはいいな。すっかり引き込まれてしまったのでした。
部活ものとして面白い。それは卓球に対する彼女らの取り組み方、それが実に素直で真摯だからに他なりません。癖のあるキャラクター、色物? と思わせておいて、真面目に部活やっているその姿がいい。練習試合のエピソードが最初の一撃でしたっけね。隣の高校のライバル、穂咲さん、彼女に焚き付けられて、トレーニングに励む部員たち。試合においても、絶対に負けてたまるものかと、もう必死。試合途中の状況こそは描かれなかったけれど、戦い終えた時の様子、息も絶え絶えになって、勝った方も負けた方も、ああなんかいいよね、こういうの。
負けて悔しい、だから頑張る。長年続けていてもなかなか上手くはならない。けれど頑張る。明日の自分は今日の自分より上手くなれるように頑張りたいですー
。この言葉には感動しました。いや、冗談とかじゃなくて、本気で感動した。負けたくない。少しでも前へ進みたいと思いながら、もがくみたいにして頑張って、そして昨日の自分にできなかったことができるようになっていることに気付く。その喜び。それが人をより深みへと導くのですね。ええ、彼女らの卓球に対する取り組み方の、だんだんに深まっていく様子、彼女らの卓球に引き込まれていく様が、私をも引き込んだのです。
けれど、彼女らも年がら年中卓球ばっかりやっているわけじゃありません。練習試合や合宿、そして市民大会といった見せ場、山場の合間には、卓球から少し離れて、学校の、あるいは遊びに出たりの様子も描かれていて、それがまたいい緩急をつけるのです。熱血というほどではないけれど、しっかりと卓球に取り組んでいる彼女らです。部活の様子ばかりだと、さすがに息が詰まるかも知れません。卓球でお腹いっぱい、みたいになったらあんまりです。けれど、合間合間に日常の情景が差し挟まれるから、そこでちょっと一息ついて、彼女たちともどもリフレッシュできる。そして、このゆるんだ時間にも卓球は無関係でないっていうのがいいんですね。卓球をまるっきり忘れたりはしない。気持ちのどこかに卓球はあり続けていて、ああ、この子らは本当に卓球が好きなんだなって伝わってくる。さらにいえば、作者、この人も卓球が好きなんだろうなって、そんな感じがひしひしと伝わってくる。卓球が好き、卓球は楽しいんだよっていう気持ちが、読んでいる私のうちにも生まれてくる。それほどに雄弁な卓球愛が素晴しいです。
で、ここでいっちゃうけど、私、小学生中学生のころ、卓球やってました。けど、嫌々とまではいわないけど、決して真面目なプレイヤーじゃなかった。だからこそ思う。もっと真剣に取り組んでいたら、きっと卓球に対する意識は違っていたんだろうなって。もったいないことしたなって、ひよりや花、葵、そして穂咲を見ていて、ちょっと悔しいです。ええ、彼女らの得ている好きという気持ちについていけない、それがなんだか悔しくて、それはつまりは、こんな気持ちになるほどに、魅力的な卓球の情景が広がっているってことなのです。
- まりも『ねこみみぴんぐす』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
引用
- まりも『ねこみみぴんぐす』第1巻 (東京:芳文社,2009年),31頁。
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