『博士の白衣女子攻略論』、表紙が実によいですよ。白衣のお嬢さんたち、ヒロイン揃い踏みといったところ。中央を占めるやる気に満ちた表情のお嬢さん、丹沢さんがやたら可愛くてですね、このやる気の意味、もう嬉しくって仕方ないのかな。念願の白衣、理想とするスタイルで着て見せて、いやほんと、本編読めばなお面白みの増す、そんな表紙に仕上がっています。表紙カバーの折り返しに、ちゃんと表紙の裏話が展開しているのも面白い。扉のイラストはハカセを真ん中に男性陣揃い踏み。こちらのエピソードはカバーをとっぱらったところに描かれていて、いや、ほんと、本編に入る前から既に面白いのであります。
この漫画のタイトル、『博士の白衣女子攻略論』、ぱっと見れば、博士が表紙のお嬢さんたちを攻略する? なんか恋愛っぽい展開とかあったりする? みたいな感じもするのですが、あとがきにて作者もいうように、全く攻略する予定なんてない、タイトルと内容合ってないじゃんというツッコミまで含めてのタイトルなのだそうです。じゃあ、どういう漫画なのかといいますと、理系の人達の職業ものですね。よりちゃんというと分析。化学分析してる会社でのお話であります。なので白衣の人たちが大活躍、といいたいところだけど、表紙中央の丹沢さんは事務の人なので、普段は白衣着ていない、ゆえにあんまり活躍しない。いや、そんなことないか。彼女には彼女の役割がある。化学にうとく、けれど憧れ持ってる丹沢さんは、うまく聞き役にまわったり、あるいは興味憧れ、白衣とか、もくもくしたり色が変わったりとか、あとビーカー、そういうのに対する憧れね、そいつでもって話に動きを与える。いうならば化学に詳しくない人たち、私たち読者の代理人であったりもするわけです。
しかし贅沢な漫画であると思いますよ。漫画に出てくる化学って、どこか盛ってある、ちょっとマッドだったり、あとよくわからない実験だったり、その結果引き起こされるスペクタクルだったり、そういうのが多いわけですけど、この漫画に関してはそんなこと皆無です。まったくもって、普通に、現実的な化学の話が展開して、それが実に豊か。当たり前ってつまらない、そんな印象もあるけれど、実はそうじゃないんだっていうことがよくわかる。そして、こうした化学に携わる人たちの態度からも、ああこの人たちにはこの化学というのが身近で当たり前の手続きで手段で営みなんだなって思わせられて、ええ、科学的トピックや知識、よくあるできごと、自然に提示されて、なるほどそうなのか、こんな風に見てるのか、いろいろ感心したりできるし、しっかり面白いのです。けれど、そうした化学ネタはこの漫画の重要な要素ではあるけれど、本質ではないんですね。
メインは、人であります。ハカセを変わりもののピークに置き、普通のつもりの白銀くんを併置して、そしてちょっと厳しいお姉さんたち。彼ら彼女らをもって、いわゆる理系的なる人たちを見せてくれるわけです。一癖ある、けれど憎めない人たち。かと思ったら、一般的理系イメージを打ち破る常識的振る舞いが出てきたりと、その描かれ方は多様で、いわゆるステレオタイプに収まらないところが一層彼らを魅力的にしています。彼らの普通が、いかにも普通の丹沢さんに対比されることで際立つ。これって普通なのかそうでないのか、どちらが一般的なのか、揺れるところに面白みが自然とかもしだされて面白い。普通で普通、普通と思ってるけどそうじゃない。ええ、理系だからじゃないです、誰にでもありうること、誰もが持ってる、そんな思い、感情、思い込み。誰もが持ってるから、理系も文系も関係なく、通じて伝わって、感じる、わかる。だからこそよいと思える、そうした漫画なのです。
- 香日ゆら『博士の白衣女子攻略論』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2012年。
- 以下続刊
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