2011年5月26日木曜日

姉の結婚

 書店でみかけて、買ってしまいました。『姉の結婚』。モノクロの表紙がきれいで、見れば西炯子。カラフルなイラストが並ぶ中、トーンさえ使っていない繊細なペン画が印象的でした。長い階段の途中、振り返っている女性。この人がヒロインなのか。しかし、ヒロインはこんなにも小さく描かれて、ああ、けれど坂のある町の風景、それらがともに描かれることで、いっそう多くを伝えて、物語を予感させる。手にしないではおられない、そんな表紙でした。

センチメンタルな回想にはじまる物語。ヒロインは県の図書館に勤める司書なのですが、老けて見える? いや、実際にそこそこいい年してるのか。東京に出ていたけれど、地元に帰ってきた。見るからに有能そう、けれど少々頑なそうな岩谷ヨリ。どうも結婚や恋愛については諦めがはいっているようなのだけど、そんな彼女にいい寄る男が現れた。といった話であるのですね。

これはある種の願望なんだろうかな。そんな感じもするのでした。二十年もの間、自分のことを思い続けていた男がいた。それも、さえない昔の面影はいずこへか、すっかりいい男に成長を遂げて、と、それが真木誠。評判のいい医師、大学でも教え、著書も人気らしい。当然のようにモテる、そんな彼はずっと岩谷の面影を追っていた? 策略を巡らせ、強引に迫る真木は、一歩間違えばサイコスリラーだけれども、実際ヒロインは当初おおいに困り、怖れてた。けれど、それがいつしか真木のことが気になるように……。

情熱的に愛されたい。そうした思いは、やはり誰しもあるのだろうな。そして、誰かを愛したい。それも情熱的に、心からの愛でもって。そうした気持ちもあるのだろう。いわば、この『姉の結婚』とは、そうした潜在的な欲求を引き出して、叶えようとする、そんな物語なのかも知れません。読者に対しては、この恋の物語が。ヒロインにおいては、あの強引な男の情熱が、この年になったら恋愛とかもうね、そうしたなかば諦めぎみの、自嘲ぎみの考えをさっと拭いさってくれる。ああ、恋っていうのはいいなあ。そうした気持ちを思い出させ、そして危険な恋のスリルでもってくすぐってくれる。恋愛する気持ち、もう純粋ではいられない、そんな恋と、けれど恋を怖れ、自分自身にさえその気持ちをごまかしてしまう、弱気でうぶな心。それらがないまぜに描かれて、切なさに共感すれば、だんだんに高められていく緊張にはらはらと気をもむこともしばしば。いきおい気持ちは、その次その次とはやるのですね。

  • 西炯子『姉の結婚』第1巻 (フラワーコミックスアルファ) 東京:小学館,2011年。

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