2011年5月11日水曜日

働け!おねえさん

 『働け!おねえさん』は、開始当初、『くるっとまわって営業中』ってタイトルだったんですが、途中で変わっちゃいまして、もとの方がよかったのになんでだろうって疑問に思っていたんです。他にも登場人物を出すためなのかなあ、営業以外の部署も扱うからかなあ、なんて思ってたら、違っておどろきです。ヒロインはふたり。来島凛子と馬渡かの子。くるりんとまわりんだから、くるっとまわって。でも、かの子、人気がなかったらしい! わお、驚き! で、おねえさんメインになったんだ! というのを知らされた時には、ちょっと笑っちゃいましたよ。

でも、それはちょっとわかるんですね。だって、最初、馬渡かの子、ちょっと嫌なやつだったもの。若い営業のお嬢さん。けど不屈の精神、というか負けん気の強さか? それとも調子がいいからか? 抜群の成績を納めて鼻高々。で、それだけなら、鼻っ柱の強いやつだなあ、くらいですみそうなもんだけど、周囲に、とりわけ成績のふるわない来島さんに対して、失礼をはたらきまくったというので、もー、生意気な若手だなあ、そんな風に思われるのも仕方なかったと思うんですね。

けど、これはいずれ周囲に馴染んでいくんだろうな、そんな様子も見えたから、こいつめー、と思いながらも見守ってたら、やっぱりそうなって、特に来島さんに懐いちゃって、ああもう、こいつめ、可愛いやつよ。ええ、評価はだんだんに変わっていって、だからこそタイトル変わっちゃったのが惜しいと思ってるんですね。もちろん来島さんはいい人で、馬渡と来島さん、どっちが好き? っていわれたら、そりゃもう来島さんって答えるんだけど、今となっては、ふたりが一緒でそれがいい、みたいな感じもあるんですね。

馬渡の変化は、彼女ひとりの変化ではなかったというのもよかったと思うんですよ。最初のうちは馬渡の鼻息荒さ、遠慮のなさに苦言呈していた加藤主任はじめ周囲の面々も、今では暖かく馬渡かの子を受け入れて、まあ多少はおしかりなどあるようですけども、厳しくも楽しい、そんなオフィスになっているんですね。で、それがすごくよいの。見ていて、楽しい。それから、厳しさなんですが、来島さんのポジションにですね、ハラハラしてしまうんですよ。でもね、彼女が追い詰められてこそわかることもあるんです。ああ、来島さん、皆から愛されてるんだなあ、って、そういう成績とか数値だけでは語れないことが、ちゃんと伝わってくるのです。そして、成績とかばかりで自分を、人を語ろうとしてた馬渡が、来島さんに触れることで、だんだんに変わっていくっていうのもですね、ああ、この漫画の中の人たちの間では、ちゃんとコミュニケーションが成立していて、影響与えて、与えられて、少しずつ変わっていくんだ。それも、みなが変わっていくんだ。実感させられまして、こうした様子に、人というものに対する愛おしさを感じてしまうほどなのです。

キャラクターが、いきいきとしている、そこに息づいている。そう思わせてくれるところに、作者、水井麻紀子の力があると感じられます。ああ、みんな生きてるなあ。その存在の確かさが読んでいる私にも働きかけて、気付けばその人たちのことが好きになっているのですね。

  • 水井麻紀子『働け!おねえさん』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

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