単行本が出ます、これまでとはちょっと毛色が違います、といわれていた漫画、『ももかコミカライズド』が出ましたね。というわけで、遅蒔きながら買ってまいりまして、読みまして、これ、漫画家志望の女の子が主人公の漫画です。漫画を描いてみた、誰かに見てもらいたかった、それで持ち込みしてみたというのですが、そのいった先が間違っていて大変! 少女漫画誌に持ち込んだつもりが、萌え漫画雑誌の編集部に通されてしまった。しかも、なんだか先様乗り気で、掲載されちゃった。萌え漫画雑誌に! 送られてきた雑誌見てびっくりですよ。思わぬことに戸惑うヒロイン。右も左もわからない萌え漫画に取り組むことになった、姫咲ももかの明日はどっちだ!?
しかし、この漫画、内容が盛り沢山です。ヒロインももかの取り組もうという萌えまんが道、漫画家としての試行錯誤や成長がメインであることは当然間違いないのですが、気になる男子がいたりする、さらにその男子にはなにか複雑な過去があるみたいで、で、この過去、絶対にももかの漫画の行き着く先に関わってくるぞ。そんな予感がひしひしとする、というか、その展開の種はもうまかれているんですね。ライバルもあって、雑誌の先輩とでもいいましょうか、天草アリス。わかりにくいたとえでもって、ももかを挑発しながら、実のところ背を押してくれているいい人。などなど。ちょっと詰め込みすぎとも思ってしまう序盤。ええ、第1巻、これはまだ序盤に過ぎないんですね。
この漫画に描かれていること、なかなかに示唆に富んでいるなと思ったのは、ももかの描いた漫画、それに対する評価でありました。初登場ゲストで10位、連載を狙う3回、その第1回は9位につけて、しかしそれがピーク。萌えとはなにか、ももかがリサーチすればするほど、読者の気持ちは離れていってしまうという状況。ああ、これに似たことを実際の漫画雑誌の誌面に見ることあります。登場した当初、お、これはいいなと思って楽しみに読んでいたら、だんだんに当初の感触が薄れていく。なにか迷走しているな、どうしちゃったんだろう、ぱたっと終わる。何度かそうしたケースを見て思うようになったのは、作者が意図せず表現していたよさというもの、そのよさとはなにか、意識しちゃったせいでわからなくなっちゃったんだってことでした。ももかはまさにこうだと思う。自分が漫画に描いたこと、そこに表現されていたもの、よさ、それがなにか、つかめていない。きっと萌えとはこういうことだろうと、すでに自分が表現していたものから目をそらして、外へ外へと向かっていってしまう。ああ、『迷走シスターズ』、おそるべき迷走であります。
漫画に限らず、表現というのはおそろしいものだなと思ったのですね。自分の好きなこと、好きなもの、それをただただ真っ直ぐに表現すればいいってもんじゃない。かといって、こんなのがお好きでしょうと、いかにも好まれそうなもの用意すればよいってわけでもない。表現者と受け取り手、双方の気持ちがかっちりとあう。マッチングするポイントを探りながら、自分のうちにあるものをかたちにしていく。まさに表現とはコミュニケーションであるのかも知れないな。それを強く思わされたのは、Chapter. 6「The Judgement Day」。読者とのコミュニケーションに失敗したももかが、拒絶を突き付けられてしまう。とんとん拍子と思われた序盤、しかしそうではなかったのだと突き付けられた逆境に、私のスイッチはたちまちオンになって、よし、これからどうなる、前のめりになろうにも、これ1巻最後の章であります。おおう、えらい気になるな。どうしたらええねん、『コミックハイ!』買うしかなイカ?
私は、風華チルヲという人の持ち味は、圧迫するかのように畳み掛けてくる情念、そして息せき切って目標に向かう、止めようにも止められない思いであると思っています。けれどそれはまだ第1巻には感じられない。1巻をまだ序盤といった理由はこれです。けれど、「The Judgement Day」、前提は成ったと感じさせられて、いよいよか、いよいよか、まさにかちりと気持ちが噛み合った、そう思わされたのでした。ももかの向かう先、そこにどうした世界が広がるのか。作者も後書きにいうように、悶々と鬱々と懊悩する試行錯誤ストーリー
、そこにこそ私の求めるものはあるかも知れない。そして、悩み迷いが深まるほどに、ももかの掴みとる結果、それは輝くに違いない。そんな予感がするのです。
- 風華チルヲ『ももかコミカライズド』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2010年。
- 以下続刊
引用
- 風華チルヲ『ももかコミカライズド』第1巻 (東京:双葉社,2010年),161頁。
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