芳文社における『けいおん!』ブームの総括は、部活もの、であったのかも知れません。『きらら』系列、『タイム』系列を問わず目立ってきたのは、部活に所属し、なにかひとつのことに打ち込もうという漫画でありました。それが芳文社の戦略であったのか、それとも部活ものに対する受容体が目覚めてしまったなど、私自身に理由があったのか、それはわかりません。しかし、部活ものが面白い、それは事実。『きらら』の系列でいえば、ボウリングに打ち込む『ラッキーストライク』が面白い。そして『タイム』の側では『パドラーズハイ』が気にいっています。
『パドラーズハイ』、ラフティングに打ち込む女の子たちの漫画であります。ラフティング? 大きなゴムボート、ラフトで川を下るスポーツですね。といっても私はこの競技については全然知らなくて、それこそこの漫画で得たものが知識のすべてだったりします。観光ないし川下りを楽しむレクリエーションとしてのラフティングがあって、そして規定のチェックポイントを通過しながらゴールまでのタイムを競うスポーツとしてのラフティングがある。この漫画に描かれるのは、主に後者のものですね。けれど発端は、ヒロインゆーゆの回想、家族で体験したラフティングの思い出でありました。楽しかった、またやりたい、そう思っていた矢先にあの時のラフティングガイドと再会して、念願のラフティングができるかも知れない! ええ、まさにゼロから部をおこしていこうという、そうした若々しさにあふれる展開が魅力です。
新設されたラフティング部は、みー先生とゆーゆ、このふたりから始まって、その後次々部員を獲得していきます。その過程は割とスムーズで、たまたま川で出会ったあいちゃん、そして放課後の教室、川に関するエッセイを読んでいたというだけの理由で引っ張りこまれたしおっち。しおっちのくだりが実によかったのですよ。まさか、こんなにハードなものだなんて思っていなかった。そんなだったのに、一度ラフティングを経験すれば、その魅力にまいってしまった。面白いではなく、気持ちいい。その感想が、この漫画のポイントでありましょう。なにせ、パドラーズハイという言葉が、気持ちいいという状況、そのものをさしています。パドルを手に川を下っていく、その時にゆーゆが見せる表情。きっと脳内にいろいろ麻薬物質が分泌されているのであろうなあ。そうした様子は見ていて気持ちいいものですよ。ああ、好きなものに精一杯打ち込んでいる。楽しい面白いを超えた先にあるもの、それを感じさせてくれる、そんな漫画なんですね。
まったくの初心者だった3人が、練習を通し、よりいっそうラフティングの面白さに目覚めていくという様子がよく描かれていると思うのです。最初は、ラフトを操るどころではなく、振り回されるようにして下っていたのが、工夫、確認、練習で克服していく。とはいえ、特訓だとか根性だとか、そうした要素はまずもって見受けられず、まずは楽しんでみる。アイデア出してチャレンジしてという、それがもう彼女らにとってのラフティングの楽しみに直結していると感じられて、ああ、今の時代、スポーツというものは、苦しいばかりのものではなく、楽しむこと、それであるのでしょうね。これはスポーツに限らないと思う。楽して上達とかではなく、練習が厳しかったり大変だったりするのは当然のこととして、けれどそうした練習こそを楽しんじゃおうよ、そういった雰囲気が悪くないなと思われたのですね。
ゆーゆたちのラフティング部、チーム名いちごケーキは大健闘。ええー、いくらなんでもそんなにちょろくないだろう、そう思わせないような前提はちゃんと用意されていて、けどやっぱりちょっと大盤振る舞いって感じます? けど、私はあの展開、やったじゃんと素直に喜んで、ええ、そう思えるだけのもの、感じたんですね。すごくよかった。ええ、私はこの漫画にすっかりみせられているのです。
- 水屋杏里『パドラーズハイ』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2010年。
- 以下続刊
0 件のコメント:
コメントを投稿