2010年9月1日水曜日

大正野球娘。

  アニメ『大正野球娘。』、ただいまBS-TBS放送分を一年遅れで視聴しておりまして、第6話「球は広野を飛び回る」、ちょうど半分を見終えたところであります。さて、『大正野球娘。』は努力練習の連続が光る野球アニメであったといっていたわけですけれど、また同時に必ずしも努力が報われるわけではないよともいっていました。実際、目標に向かって頑張っている彼女らですが、その頑張りがすべて報われたというわけではなかったんですね。そして私は、報われなかったからこそ、このアニメはよかった。そう思っているのであります。

すべての努力が報われるわけではない — 、第5話「花や蝶やと駆ける日々」のテーマがそうしたものだったと思っています。ええ、胡蝶です。胡蝶ははじめ陸上部でリレーの選手を目指していた。けど、その夢を掴むことはできませんでした。才能がなかったのかどうかはわからない。あのまま続けてたら、後半での追い上げにも負けない、そんな選手にもなれたかも知れない。けれど、彼女は考えたあげく桜花会に転身するんですね。

私はこの回がすごく好きです。練習が光っていました。基礎練習の走り込みやってるストイックさの中に、繰り返し同じシーンを見せる面白さがある。人力車でレースするという、文句なしに楽しいシーンがある。そして、胡蝶のことがある。壁に直面していた彼女 — 。

誰しも挫折した経験ってあると思うんです。やりたいことがあった、なりたい自分があった、けれど断念せざるを得なかった。ええ、私にもあります。演奏家を目指して大学に入ったけれど、芽が出そうにない、研究に転じた方がよいのではないか。担当教官と話して、学科を変えたのですね。そうした過去があったから、胡蝶のことを自分のことのように感じていたのかも知れません。ひとごとではあれなかった。アンナ先生のとりあげたグラハム・ベルの扉の話。可能性は常にどこかで開かれていますよという語りかけには、見ている私にしても胸を打たれるものがありました。ええ、とてもいいエピソードであった。何度見ても思います。

そして、もうひとつ。努力が常に報われるわけではない、それは彼女らの試合もそうでありました。最終回、工夫と努力で掴んだ序盤のリード。それを失っても、食い下がった彼女ら。今、野球ができることが嬉しい。最後になるかもしれないこの機会を大切にしたい、その一心で果敢に立ち向かって、そして同点なるか! ヒロイン小梅の滑り込み。アウトか? セーフか?

わずかに届いていませんでした。ええ、負けてしまうわけです。

けれど私は、負けてしまったからこそ、このアニメはより優れたものになったのだと思っています。彼女たちの目標はなんだったのかを考えてみればわかります。野球で女子は男子に勝てるのか? ええ、野球で男子に勝つ、これが彼女たちの目標だったら、このラストでは不満でしょう。しかし彼女らの目標、それは女子が人として男子に対等であると認めさせる、というものでした。野球で勝つというのは、目標ではなく手段であったのです。

もし彼女らが勝っていたら、岩崎ら男子は彼女らを認めてめでたしめでたしでした。もちろんそれでもよかったわけですが、実際には彼らは勝ってなお彼女らを認めてめでたしめでたし、でした。そうなんですね。彼ら男子は、負けたから彼女らを認めたわけじゃないんです。野球では男子が勝った。しかし彼らは試合を通じて彼女らの頑張り、気迫を知り、勝敗なんか関係なしに、とっくに彼女らを認めてしまっていたんですね。彼女らに対し真剣に勝負しようと誓い合うことで、彼女らへの敬意を表した彼ら。彼らにあの気持ちを起こさせた時点で、桜花会彼女らの目標は果たされていた。野球の試合には勝てなかったけれど、人としての尊厳を賭けた戦いでは見事に勝利を収めていたのです。

試合に負けて勝負に勝つというラスト、これが結果的に、どちらが勝者で、どちらが敗者であるだなんてことを、とてつもなく小さなものにしてしまったと私は感じています。ラグビーにいう、ノーサイドの精神。勝敗というものを超えた和解、試合が終われば敵も味方もない、皆、対等の仲間なのだ。そうした爽やかさ感じさせるラストは、野球に勝つために続けられた努力の連続、それが報われなかったからこそ得られた、そう思っています。負けてなお凛々しい。負けたからこそ女性の尊厳というテーマは際立ち、彼女らはより一層に輝きをみせることになった。私はそのように思っています。

コミックス

  • 伊藤伸平『大正野球娘。』第1巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
  • 伊藤伸平『大正野球娘。』第2巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
  • 伊藤伸平『大正野球娘。』第3巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2009年。
  • 伊藤伸平『大正野球娘。』第4巻 神楽坂淳原作 (リュウコミックス) 東京:徳間書店,2010年。
  • 以下続刊

CD

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DVD

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