2010年2月15日月曜日

アステロイド・マイナーズ

 あさりよしとおの新刊が発売されたというので、書店へと繰り出してみました。『アステロイド・マイナーズ』。人が地球を離れ、宇宙に住もうという時代を描いた、空想科学漫画であります。しかし、あさりよしとおは宇宙がお好きだ。宇宙に出る、宇宙に暮らすということを真面目にしっかり表現して、しかしただ科学的に正しい宇宙漫画にとどまりません。宇宙への憧れやロマンが、表現を後押ししてる。加えてコメディっぽい味付けもあるから、科学ものが苦手、けど興味はあるんだという人にも楽しく読めそうです。

この漫画には、あさりよしとおの漫画にはつきものの茶化すような表現、それはほとんどなくて、だからあさりよしとお入門にもうってつけの漫画ではないかと思われます。反面、そうした要素を楽しみにしている人には、少々物足りなく感じられるようなところもあるのではないか。そんな気もしていて、でも、私はこの漫画におとなしさ、分別のようなものを感じつつも、たっぷりのユーモアが楽しませてくれるものですから、物足りなさなんてこれっぽっちもありませんでした。

小惑星という過酷な現場で働く労働者の悲哀。それがただ苦しく辛いものとして描写されるだけなら、そんなに面白いものにはならなかったかも知れません。けれど過去にも存在した過酷な労働、そいつを主人公及び読者に思い起こさせることで、ちょっとした深みと、そしてにやりとさせられるような面白みが出て、このテイストはまさにユーモアによるものでした。それらユーモアはコメディの味付けとなって、しかしそこに留まらないのですね。きっと厳しい宇宙の現実をあらためて突き付ける、そんな役割りをも担っていました。実にうまい見せ方ですよ。ただのコメディじゃないんだ。それは面白がらせるためのものだけじゃなかったんだ。ええ、大変に達者な見せ方で、私はもうすっかりやられてしまいました。

この漫画は、いつかくる宇宙時代を描きながら、けれど同時に今の私たちの現実も射程にいれている、そう思うのは、私の考えすぎでしょうか。そうしたものを最も濃厚に感じたのは、第3話「ゆうれいシリンダー」でした。地球という巨大な環境では自然になされる循環が、小さな小惑星居住空間では無理だという話です。ゴミや排泄物、人間が生活することで排出されるそれらを、人の管理のもとで再び利用可能なものに再生する。そうでないと生存さえもままならない。そうした宇宙における現実を眺めながら、しかしそれは現在地球に暮らしている私たちにも同じなのではないかと感じたのですね。

都市から排出されるゴミや下水は、自然が処理するにはあまりに膨大すぎて、充分に処理されないままに放置されているような状況もあると聞いています。そして、あさりよしとおが、こうした問題を知らないはずがない。だって、こういう話、この人の漫画で読んだりしてたのだもの。『HAL』だっけ? あるいは『まんがサイエンス』だったかも。いずれにしても、あさりよしとおは人が生きる上で知っておかなければならないことを、宇宙を手段としてあらためて表現したんじゃないかと思ったのでした。地球という閉じた環境に暮らす私たちも当然考えるべきことなんだと、直接そうしたことはいわなかったけれど、どれだけの物が自分の生存を支えているか想像すらしない、そうした表現に、現在の人類にとってもこれは決して無関係な問題ではないのだと、そういうメッセージを感じたように思ったのです。

もちろんこれは、私の考えすぎかも知れません。だから、やっぱり宇宙の小居住空間において生命を支えるシビアなバランスを描いたものと、素直に読むべきなのかも知れません。けれど、それでもなお、想像しろと、宇宙を想像し、そして地球についてを想像しろ。暮らしを、そこに生ずる現実を想像しろ、想像力を研ぎ澄ませろと、そうした声が聴こえてきて仕方ありませんでした。ええ、それはこの漫画がとても刺激的であるということをいっています。最高に刺激的で、最高に面白い、そんな漫画であります。

引用

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