2008年8月24日日曜日

男爵校長DS

 ÖYSTERの漫画『男爵校長DS』は、『男爵校長』の続き。おなじみアリカを筆頭とする女子高生面々が、なんだか楽しそうだったり、あるいはシュールだったり、そんな日常の小シーンを切り取ってみましたという、そんなところが魅力的な漫画です。元気な娘たちに、コスプレなのか変身なのか、妙な格好、わかるようなわからんようななにかに早変わりして、なにをか告げようとする男爵校長。彼らのシュールな掛け合い、噛みあう噛みあわないのぎりぎりでやり取りされる言葉の面白さに、キャラクターの個性が相まって、独特の世界を作り上げています。

そう、キャラクターの個性が強い漫画です。本当に魅力的な娘たち、そしておっさんたちも。現実にもいそうでいない、そんな桃源郷的娘がいれば、いなさそうでやっぱりきっといないだろうという、破天荒な娘もたくさんあって、そうした彼女らが読むごとにいとおしく感じられる。そういう漫画だと思っていて、いや実際にそうした魅力にあふれた漫画なのです。でも、きっと私は大切な要素を見落としていました。それに気がついたのは『男爵校長DS』を読んで、でした。そしてその大切な要素とは、彼女らの気付きにフォーカスがあてられているという、そこでした。

『男爵校長DS』では、謎の紳士、月彦がアリカたちに関わってくるのですが、この顔面が月球儀の男、謎めいた言動で彼女らを翻弄するかと思えば、時に助言を与え、彼女らのこれまで気付いていなかったことに意識を向けさせる。あるいは気付こうとしない態度を和らげることもある。そんな役割も担っていたように思います。四コマの連続があって、そして月彦との対話が一ページ丸々使って描かれて、最後の四コマに続く。そうしたパターンにおいて、月彦の存在はおのずと大きくなって、反面小さくなっていったのが校長の存在感なのでしょう。思えば、月彦登場以前は、校長の早変わりが気付きへの後押しをしていたんでしたっけ。その役割が月彦に移って、そして月彦の気付かせる手段は言葉でした。たとえ謎めいていたとしても、校長の早変わりほどに突飛ではなく、だから気付きのプロセスがずいぶんわかりやすくなりました。そしてここまで明確にされて、やっと気付きがひとつのテーマになっていると気付くことができたのでした。

彼女たちは気付くのです。自分の気持ちに気付き、友人たちの思いに気付き、物事との関わり方、関係することで生じるものに気付き、そして心が閉じていること、気付こうとすることにかたくなであることに気付きます。そして気付いた後には変化、成長が待っているのでしょう。この漫画、『男爵校長』も『男爵校長DS』も、その土台には彼女らの成長、変化がしっかりと根を張っていて、そして彼女らが気付きに達するのは、あくまでも彼女らの起こすアクションによってであるのです。その健全さ、その彼女らの伸びようという姿が、生き生きとして、はつらつとして、魅力的であるのでしょう。ただ、その気付きに導く手段、謎めいた行動によって伝える校長と、謎めいた言葉によって伝える月彦、その差に読後感の違いが生じていたように感じます。

けれど、それは決してどちらかが悪いといいたいわけではなく、そのどちらにも味がある。違ったテイスト、違ったあたり方があるのです。彼女らを中心に置いた『男爵校長』と、月彦そしてDS部というもうひとつの重心をおいた『男爵校長DS』と。後者は、アリカたち、娘らの個性の発揮が若干押さえられましたが、その反面、『男爵校長』ではきっと導き出されることのなかったと思われるような、例えばそれは謎に踏み込む小夜子さんのような、また違った側面が光ったように思うのですね。そして私は、そうした側面も嫌いではないのです。多彩な顔に魅かれる、その多彩さを引き出す『男爵校長DS』、私はこの味も悪くないと思ったのですね。

それはそうと、TRPGやってみたいですね。サリーを着た小夜子さん、綺麗ですね。意地を張る弦音さんはかわいいし、アタマポンポンはやってみたいですね。そして当然、女の子の言う事なら聞きます。

  • ÖYSTER『男爵校長DS』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2008年。
  • 以下続刊
  • ÖYSTER『男爵校長』第1巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2005年。
  • ÖYSTER『男爵校長』第2巻 (アクションコミックス) 東京:双葉社,2007年。

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