おおた綾乃の『あいどく!』は、出版社にて働く編集者たちの仕事ぶりを描いた漫画であるのですが、それがもう普通でないのが実に楽しくて、個性的な編集者に、個性的な作家。けど、この漫画に関しては圧倒的に編集者の方が変だと思います。誰もがものすごいハイテンションで突っ走っている。それはもう、疲れている時にはついていけないほどの勢いでありまして、これはまさしく動の漫画といえるでしょう。しかもこの動的という印象、おおた綾乃の漫画には多かれ少なかれ動的な要素、独特のテンションの上がり方があるのですが、『あいどく!』に関しては、過去のどれよりもそれが激しいと感じられて、ノンストップと感じられるほどに疾走、いや、暴走? することもしばしば。そうしたのりについていけるならきっと面白い、巻き込まれた揚げ句に、自分のテンションも上がっている、そんなことさえある漫画です。
主人公は桜丘よしの、新人編集者で、なんと自社の名前をうまくいえない、そんないたらないところもある娘であるのですが、妙に素直で、妙にバイタリティあって、そして割と普通。変なのは、よしのを取り巻く同僚、先輩たちであるのです。誰よりもハイテンションな小野華、追いつめられるとよりいっそう異様さを増す南野チーフ、シビアなのか厳しいのかおかしいのか、たまにわからなくなる北村編集長に、そして忘れてはならないのは女の都さんでしょうか。
基本的にはクールな男です。淡々とやるべきことをこなし、無駄は極力廃する。そうしたストイックとも思える顔を見せる彼が、実は誰よりも乙女チックな趣味であるというギャップ。ああ、やっぱりこの漫画に普通の人はいないんだ! 当初こそはテンション抑え気味に描かれていた女の都なんですが、いったんその好きというスイッチが入ってしまえば、やっぱりハイテンション、よしのなどお呼びでないほどのアクティブさを見せつけて、ああよしのはまだまだだなと、新人のいたらなさをまたも印象づけるのでありました。
よしののいたらなさ — 、自分の会社の名前をいえないなんていっていました。その社名とは、老若男女社。実際、これを流暢にいうのは容易ではなく、それどころかキー入力も難しい。よしのが一人前の編集者になるには、老若男女社とスムーズにいえるようになる……、ではなく、やっぱり他の編集者に負けず活躍できるようになる必要があるってことなんでしょうね。ということは、彼らに負けないハイテンションを身に付けるってことかい? ああ、それはすごく困難な道のりと思えます。けど、彼女もおおた綾乃キャラ。いつか一人前に到達できる、そうした片鱗が感じられて、ということは、漫画のテンションもこれ以上に上がるってことか。
おいてきぼりにされないよう、私も気合い入れていきたいと思います。
- おおた綾乃『あいどく!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- 以下続刊
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