2008年4月21日月曜日

ふるーつメイド

  私がいったんこの漫画を見送ったのは、殿方はわかりやすい方がいいんですよといわれることを怖れたからかも知れません。主人公、漫画家を目指す夢多き大学生、一成のもとにメイドが三人送り込まれてきた! という漫画です。しっかり者のクールビューティ林檎、底知れず謎めいた眼鏡メイド蜜柑、そして真打ちなのか? どじっ娘だけどどこまでもまっすぐ一生懸命な苺の三人、さああなたはどの娘が好み!? と聞かれて、あ、じゃあ、はい、林檎さんで、とかそんな手を食うかーっ! と思っていた時期があったのかも知れません。今じゃなんの躊躇もないんですが、ええ、蜜柑さんが好きです。でも林檎さんの方がもっと好きです。でも一成はきっと苺を選ぶんだろうな……。

さっきいっていた、見え見えの罠に引っかかってたまるかっていうのは、ちょっとほんとだけど、ほとんど嘘です。実は買おうかどうか迷っていたんです。けれどその1巻の出た当時、私はちょっと四コマ漫画を取り巻く状況に疲れはじめていましてね、どんどん出る新雑誌、その時は少しやけだったんでしょうね、とにかく買ってみて、三号でつぶれるならそれでよしと思っていた、そんな時期だったように思います。といっても、かたくなに芳文社しばりに徹して、だってそもそもが他者の雑誌見かけないし、それ以前にもう何誌あるかわからんし。そんな具合に、もうなにがなにやらわからなくなってきていて、そろそろ自分ははじかれた末にたどり着いたはずの四コマというジャンルからもはじかれるのかなと、そんな気分だったのですね。だから、漫画を買おうという時にも、多少ブレーキをきつめに踏んでいた。買いはじめると、今後いったいどこまで拡大するものやらわからんと怖れて、新刊とりわけ新レーベルに対しては買わない方向買わない方向にと調整をかけていたのでした。

『ふるーつメイド』の2巻が出たので、既刊を買いました。それではっきりと理解しました。ああ、1巻買っておかなかったのは失敗だった。迷ったその時に、買うと決めときゃよかったんだよ。今では私は開き直ってるから、迷うくらいなら買えの精神でいるのですが、当時の私は色んな意味で思い切りが足りなかったのだなと、そう思わないではおられません。

『ふるーつメイド』第1巻が『もえよん』掲載分、第2巻は今はなき『まんがタウンオリジナル』と『ケータイまんがタウン』にて連載された分。私が読んでいたのは『タウンオリジナル』掲載分であったのですが、『ちびでびっ!』ですでに知っていた寺本薫。結構好きな作家で、だから連載も結構楽しんで読んでたのですが、なぜか単行本に手のでなかった理由は、以上のような非常に屈折したものでありました。そして、遅まきながら買って、読んで、驚いたのが『もえよん』掲載分とそれ以降のものでは、設定やなんかが少しずつ違っているようでして、あるいは設定は一緒なんだけれど、描かれるシーンが限定されたとでもいったらいいんでしょうか。いや、それでもあえて私はいいたい。この漫画は2巻に入った時点で、軽くリセットが入っています。

最も大きな変更は、蜜柑だと思います。1巻では確かに蜜柑も一成に好意を持っていたのに、2巻以降は傍観者に後退してるし、それに漫研の美沙との微百合展開も薄れました。三すくみ三つ巴のハーレム状況に微百合、このへん、美味しいポイントだと思って読んでいたから、ちょっと残念だったかも。残念といえば、一成の女装美少年展開。あのへんも薄れたというか、消えましたよね。あの、叶うんだか叶わないんだか、叶ったらむしろ不幸なんだかの部長の恋、好きだったんですよね。1巻かけて作ってきた設定だとか関係だとか勢いだとか、それがより一般向けの『タウンオリジナル』に移ることで、よりマイルドなものになるよう調整されたのだとしたら、より一般から外れる私には残念としかいいようがない。それこそ即売会にジャンル創作(男性向)で参加させられて、美人美少女メイドをアシスタントにエロ漫画描く羽目になるという針のむしろ展開。アグレッシブで素敵だった。もちろん2巻も面白くて好きなんですが、よりアグレッシブでシビアで辛辣、厳しさもそこはかと漂う味わいの1巻のバランスが私には好ましかったなと思われて、だからこの先、客層にもよるのかも知れませんが、もっともっと過激にチャレンジしていただきたい、そんな風に思うのです。そう、部長が萌えキャラではなくて、萌えキャラ一成に部長が! 部長が!! といったようなのりでも私は断然オッケーです。いや、性別なんか気にしないさ!! というか、それくらい突っ走るくらいが! といいながら、普通の読者を振りきっちゃっても元も子もないからなあ。私はやっぱり特殊なほうだと自覚してますから、まあ、ほどほどでお願いします。

1巻と2巻で変わったといえば、絵柄もちょっと変わりましたよね。私はもともとあまり絵の揺れには気付かないたちなのですが、それでも2巻になってずいぶん目のまわりというかがぱりっとして、特に蜜柑さんの眼鏡とのバランスが変わった? より輪郭がかっちりしたというか、2巻75ページ左3コマ目とか素晴らしいと思いますが、というのはさておいて、実は私はこの人の人体の書き方が結構好きなんです。肩とかちょっとがっしりした感じで、水泳選手っぽい身の付き方してることがありますが、ああいう感じが結構好きで、本来なら華奢で薄っぺらいのが好きなはずの私が、なぜかこの人の絵に関してはそうではない。不思議です。でも自分でも不思議に思いながら、そのボディのあるという感触が魅力的と感じるのは、もう仕方がない。魅力にはあらがえないものであると、つくづく思わされます。

  • 寺本薫『ふるーつメイド』第1巻 (アクションコミックスもえよん) 東京:双葉社,2005年。
  • 寺本薫『ふるーつメイド』第2巻 (アクションコミックスもえよん) 東京:双葉社,2008年。
  • 以下続刊

引用

  • 寺本薫『ふるーつメイド』第2巻 (東京:双葉社,2008年),89頁。
  • 同前,83頁。

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