『朱雀 — 歌舞伎町・雀姫伝』と一緒に買った一冊。『朱雀』とは違う出版者から出ているんだけど、二冊の帯についている応募券を揃えて送るとなんか描き下ろし同人誌をいただけるという話ですから、じゃあ一緒に買っとくか。そんなのりで買いました。なおこの時点で私、もりしげという人の作風もろもろわかっていません。それまでなにを描いていた人であるかということもわからないまま、表紙買いとその連鎖で選んだ。一般の人はどうかわかりませんが、漫画たくさん読むような人なら、そんなに珍しい買い方ではないですね。そして帰ってから既作を調べてみたら、『花右京メイド隊』と『こいこい7』の人だそうでして、へー、そうなんだー、ってさも知っているようにいいますが、実は両方ともタイトルしか知りませんでした。
そして『フダンシズム』。これは、少し前に駅前の書店で見ていた表紙です。白バックに目つき鋭い金髪女子とクールな黒髪眼鏡男子がそろいで立っている、ちょっとおっと思わせ、立ち止まらせた表紙でありました。手にも取って、腐女子と呼ばれるような女性を知るために、この少年が女装して同人サークル活動をする話ということを理解。けど、申し訳ないけど、この帯の惹句、駄目ですよ。私はこれで買うのをやめています。漫画なんて荒唐無稽でいいとはいっても、これはあまりにあまり、とんだ飛躍じゃないかねと思ったんですね。けど、買って実際に読んでみたら印象はずいぶん違う。むしろ主人公の数は巻き込まれているんですよ。突然の人手不足を乗り切るために、半ば無理矢理女装させられて、それがいったいどういうところかも知らないままに同人誌即売会に放り込まれるという素敵展開。しかも、最初は抵抗していたくせに、かわいいといわれてなんだかその気になっている美少年! いいよ、これはいいよ! なんだかよくわからないけど、すごくいいよ!
なにがいいといっても、そのギャップをおいて他にないでしょう。学校では眉目秀麗文武両道、王子と呼ばれ多くの女子からしたわれる、まさしく完璧な美少年である数が、その完璧ゆえの負けず嫌いをうまく利用されて女装、アマネとして動員されるという意外。そしてそのアマネとしての数がいいのです。普段なら、うろたえるなどということなどまるでなそうな数であるのに、アマネの時には思わぬ動揺を、焦りを、戸惑いを見せて、その頬を紅潮させる。恋しい相手、望 — のぞみんをイベントで見付け、アマネとして出会ってしまうという、不幸なのか幸運なのかわからない縁のおかしさ。学校では天然でスルーされ、へこんでばかりの数は、のぞみんとの繋がりを維持したいがためにアマネとなる。そしてのぞみんを知り、近づきたいとの一心で、彼女らの世界、腐女子の世界に足を踏み入れる。そして知る、めくるめく世界! 混乱しながらも持ち前の一途さで、前へ前へと進むアマネ、いやさ数のいじらしさですよ。これはアマネの姿に数を思い描いて読む漫画だと思いました。アマネとしての数、数であるアマネを愛でる漫画であると思いました。
実際、期待していなかったということもあったのか、すごく面白い漫画でした。勉強スポーツには完璧だけど、人の心の機微には疎い、そんな数の弱い部分があらわれる、そういうところは本当に彼を魅力的に感じさせるし、そしてその対人関係の不器用さがゆえの、ある種天然、ある種イタい、ある種初々しい行動の数々は、おかしさ、面白さを生み出しつつ、またも彼を魅力的に見せて、いやほんと素晴らしいよ、これ!
というわけで、女装美少年ものにかなりやられてしまっています。というか、女装美少年というジャンルは、正直かなりいけそうですね。と、これまでまるで関係なかったふりをしていますが、実は以前から女装美少年は好きでした。しかし、つり目女子といい女装美少年といい、いったいなにがきっかけでそうした受容体ができたものやら。そして、目覚めればあとは育つのみ。そんなわけで、私もなかなか足抜けならない世界に踏み込んでいる模様であります。
- もりしげ『フダンシズム — 腐男子主義』第1巻 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2008年。
- 以下続刊
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