2008年4月18日金曜日

でゅあるてぃーちゃー

 ボマーンの単行本が『ヒントでみんと!』、『ほほかベーカリー』と立て続けに出たのを受けて、どうせならばと既作にも手を出してみたのでありました。『でゅあるてぃーちゃー』。今はなき『もえよん』という雑誌に連載されていた漫画なんだそうですが、実は私この雑誌見たことがありませんでしてね、ということは当然漫画の中身についてもわからないというわけで、興味は持ちつつも手を出さずにいたのです。その頃は『ほほかベーカリー』もまだはじまっておらず、『ぬぐー』については知ってはいたけど、読んでなかったし、これを描いている人が『でゅあるてぃーちゃー』の人とも気付いていなかったしで。そんな状況で、知らない雑誌の知らない作家を買うというのは、やっぱり少し迷うことであったのでした。

けれど今はもうボマーンという作家がどういう漫画を描くかわかっていますから、買うならまさしくこれが機会と思ったのですね。『でゅあるてぃーちゃー』、二重人格の教師が主人公の漫画で、おだやかおっとり系の一葉先生と過激で奔放な二葉先生が、眼鏡の有無で切り替わる。それぞれの特性がそれぞれに面白いのですが、でもこの両極端ともいえる性格がひとりの中におさまっているからさらに面白いのかも。というのは、別に二葉なら二葉だけでも面白かったとは思うんです。同様に一葉だけでもそれなりに読めるものになっていたはずだと思うのですが、けれどどちらかだけだと、この漫画に出ている面白さはきっとなかったんだろうなと思われて、それはやっぱり二重人格というギミックが充分に生かされていたということなのでしょう。

さて、教師がいるということは生徒もいるということで、つっこみ優等生(おそらく唯一のつっこみ役)からボケ役、さらには霊感少女やらマペット腹話術少女、加えてシスコン兄持ち妹などなど、おたく向けあるいは萌え系なんていわれる漫画にはよく見られるタイプのキャラクターが揃っています。とはいっても、よくあるタイプといえば確かによくあるタイプなんですが、けれどそれが各人いきいきとして個性的に動くものだから、類型的でありながらも個性的というか、間違いなくそのキャラクターであるという独自性がある、すなわちただ鋳型から出されたようなキャラクターではないのですね。そしてこのキャラクターが動いているという感触が、この漫画の面白さをよくひっぱって、空気を暖め、読者を巻き込む力となっています。

キャラクターがよく動く、ボマーンの面白さはこれなのかも知れませんね。そのキャラクターのらしさをもって、期待されるように動き、そして期待を上回って動き、そうした登場人物たちが相互にかかわり合うことで、場も動く。それが面白い。少しナンセンスな味があり、時にかみ合わず時にずれた会話を淡々とするような面白さもあり、ボケとつっこみがあって、そしてシリアスな話も時には展開する。このそれぞれの塩梅、ひとつ傾向にあまり突っ込んで展開しすぎないで、けれど充分に楽しませてくれるという塩梅がなによりのよさと思います。

そして、基本ナンセンス風なのに、時にはっとさせるようないいネタを見せてくれるから油断ならないんですよね。最終回とかしたたかにやられてしまって、あの、なんていうの、一回ギャグに逃がしたあとに、シリアスを持ってくるのはうまいですね。人間は笑うと心が開くんです。だから、一度開かせてから踏み込むといったやり方はこのうえもなく効いて、でもそれだけじゃないですね。私もこの一冊読む間に、不良教師といわれるような二葉を嫌いでなくなっていた、一葉と二葉のコンビが好きになっていたっていうことなのでしょう。だから、そこには私の望んだ言葉があったということに他ならず — 、私も望んだ言葉が望んだ以上の効果を持って発されたということに、私の思いもあふれたということなのだと思います。

蛇足

ずいぶん久しぶりのような気がしますが、折角なので。あの若本千夏という娘はよいですね。などといいながら、傍若無人教師も結構嫌いでなかったりします。いや、彼女はよいですよ。

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