2008年4月11日金曜日

てんぷら

   『てんぷら』というタイトルは、十歳テンさい離れたプラトニックなカップルの略でしたか。28歳の薫と18歳の勇志ふたりの、特に盛り上がるわけでもなく、ましてやジェットコースターでなどあり得ない、不思議に枯れた恋愛模様が楽しい漫画でした。枯れたとはいっても、愛が枯れたわけじゃないんです。むしろ愛は巻を重ねるごとに充実するといった感じで、社会人だけど生活の基礎が駄目な薫を支えるべく、学校の行き帰りに通っておさんどんまでやってしまう高校生主夫勇志、でこぼこながらもよい関係を維持する、まさしく理想的なカップルであるのです。一見すれば、逆転カップルで、だらしない女性を支える男の子の健気な献身ものですが、読んでみれば、勇志は薫の世話もろもろをむしろ喜んでやっていて、まさしく天職。こんなふたりを、われ鍋にとじ蓋といったら失礼ですね。だから私はこういいたいと思います。ふたりの求め、与えるものがぴたりと合致した、そんな素敵なカップルであります。

見ているとなんだか仕合せ、というか変にあてられたりするんですけど、『てんぷら』も4巻が出て完結です。そうかあ、長かったのかなあ。今こうして読み終えてみると、なんだかあっという間のような気もして不思議です。薫と勇志の、人生のある一点を描いた、そんな印象のする漫画でした。描かれる前の時間があって、語られた時間があって、そしてこれからもふたりの時間は続いていくんだろうって、そんな感じを残す漫画だったものだから、カバーをはいだところのイラスト、嬉しかったですよ。私の思っていたことは確かだったんだなって、そういうように思えましてね、ああこれから先の彼女彼らを見てみたいよ、十年先、二十年先を見てみたいよと、そんな思いがさらに募るようでありました。

しかし、恋愛の真っ直中のカップルを描いて、これほどに浮沈の少なかったというのは特筆すべきであります。世の中には、恋愛を描けば好きの嫌いの、あなたのこと信じられないだなんて悶着起こさずには気の済まないようなジャンルもあって、主人公が男ならモーションかけてくる女が出る、女なら同時に二人に言い寄られるなんてのももう日常茶飯。もちろんそういうのが面白いってこともわかります。恋愛というのは、真っ直中に飛び込んでその紆余曲折浮き沈みを楽しむものなんだっていう意見もわかるんです。

けど、もう疲れたんです。もっと穏やかでいいんです。私はあんたが好きなんだ、私もあんたが好きなんだ。それだけが確認できたらいいじゃないか。中国の伝説に比翼の鳥だなんていうのがあるけれど、二羽で二枚の翼使って、寄り添いながら飛ぶような、そういう男女の仲があってもいいじゃないか。という私には、『てんぷら』は安心して読める漫画でした。薫は勇志大事だし、有志は薫以外目に入らないし。盲目というほどでもない、けれど冷めているだなんてことはあり得ない、若さ感じられるストレートな恋の色と、長年連れ添った夫婦の落ち着きが混ざり合ったような、本当に面白いふたり、ほほ笑ましくもうらやましいふたりであったと思います。

しかしそんなふたりの最終話の決断、そこに至るまでのささやかな思いの揺れ、波乱。きっとうまくいくと信じてはいるのだけれども、そして案の定、期待どおりのラストにたどり着くのだけれど、しかしそれがじんとさせるのは、やっぱりそうした流れが自然で、なにより一番よいと思えるものだったからなんでしょうね。それで、おまけの後日談。あーもーちきしょー、有志はかわいいなあ薫さんは綺麗だなあ。やっぱりあてられるのであります!

  • なんば倫子『てんぷら』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2004年。
  • なんば倫子『てんぷら』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2005年。
  • なんば倫子『てんぷら』第3巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2006年。
  • なんば倫子『てんぷら』第4巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。

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