『てんぷら』というタイトルは、
見ているとなんだか仕合せ、というか変にあてられたりするんですけど、『てんぷら』も4巻が出て完結です。そうかあ、長かったのかなあ。今こうして読み終えてみると、なんだかあっという間のような気もして不思議です。薫と勇志の、人生のある一点を描いた、そんな印象のする漫画でした。描かれる前の時間があって、語られた時間があって、そしてこれからもふたりの時間は続いていくんだろうって、そんな感じを残す漫画だったものだから、カバーをはいだところのイラスト、嬉しかったですよ。私の思っていたことは確かだったんだなって、そういうように思えましてね、ああこれから先の彼女彼らを見てみたいよ、十年先、二十年先を見てみたいよと、そんな思いがさらに募るようでありました。
しかし、恋愛の真っ直中のカップルを描いて、これほどに浮沈の少なかったというのは特筆すべきであります。世の中には、恋愛を描けば好きの嫌いの、あなたのこと信じられないだなんて悶着起こさずには気の済まないようなジャンルもあって、主人公が男ならモーションかけてくる女が出る、女なら同時に二人に言い寄られるなんてのももう日常茶飯。もちろんそういうのが面白いってこともわかります。恋愛というのは、真っ直中に飛び込んでその紆余曲折浮き沈みを楽しむものなんだっていう意見もわかるんです。
けど、もう疲れたんです。もっと穏やかでいいんです。私はあんたが好きなんだ、私もあんたが好きなんだ。それだけが確認できたらいいじゃないか。中国の伝説に比翼の鳥だなんていうのがあるけれど、二羽で二枚の翼使って、寄り添いながら飛ぶような、そういう男女の仲があってもいいじゃないか。という私には、『てんぷら』は安心して読める漫画でした。薫は勇志大事だし、有志は薫以外目に入らないし。盲目というほどでもない、けれど冷めているだなんてことはあり得ない、若さ感じられるストレートな恋の色と、長年連れ添った夫婦の落ち着きが混ざり合ったような、本当に面白いふたり、ほほ笑ましくもうらやましいふたりであったと思います。
しかしそんなふたりの最終話の決断、そこに至るまでのささやかな思いの揺れ、波乱。きっとうまくいくと信じてはいるのだけれども、そして案の定、期待どおりのラストにたどり着くのだけれど、しかしそれがじんとさせるのは、やっぱりそうした流れが自然で、なにより一番よいと思えるものだったからなんでしょうね。それで、おまけの後日談。あーもーちきしょー、有志はかわいいなあ薫さんは綺麗だなあ。やっぱりあてられるのであります!
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