2008年3月15日土曜日

ただいま寄生中

 なんかここ数日、児童ポルノ規制法絡みの話題がにわかに盛り上がりつつあると感じられるのは、今月11日に日本ユニセフ協会他が「なくそう!子どもポルノキャンペーン」と銘打って、ある種強硬な呼びかけをしたことに関係してのことでしょう。それまでの児童ポルノ規制法改正においては、単純所持を罰することに対する疑問、そして実際の児童を被写体としたもの以外まで規制すべきかどうかの是非など、そうしたところが問題の焦点であったところが、急転直下とでも申しましょうか、より広範で強硬な規制を求めるキャンペーンが大々的におこなわれて、これまで静観していた層、あるいは自分には関係ないと思っていた層にまで問題意識が広がったというところであろうかと思います。

強硬な呼びかけというのは、日本ユニセフのいう準児童ポルノであるのですが、実際に存在する児童をではなく、実写であれば児童(=18歳未満のもの)とみなしうる役柄を、アニメ、漫画、ゲームであれば、児童(=18歳未満のもの)とみなしうるキャラクターをも規制対象としようではないかという、そういう呼びかけが子どもポルノという非常にキャッチーな言葉とともになされているのでありますね。

もしこのような法が成立した暁には、いったいどれくらい広範に摘発、処罰の網を広げることができるんだろう。幸いというべきか、私はいわゆる実写ものは持っていないので、そちらで摘発される心配はないんですが、漫画やゲームが対象になれば、摘発、処罰の対象になりうるところが危険です。現在合法に出回っているもののなかには、間違いなく未成年であるキャラクターの性描写を扱ったものが多数あるわけですが、それらが準児童ポルノとみなされ、そしてそのみなされたものが私の所持しているものの中にあれば、当然摘発の対象になりますわね。さらにいえば、私が仮にそうしたものを所持していなかったとしても、所持しているのではないかという疑いで捜索令状を請求、出されてしまったとしたら、家宅捜索されるのも夢じゃない。もちろんそれで疑わしいものが出れば起訴、あるいは準児童ポルノには該当しないものの、他の犯罪にかかる物件が出てきたら、そちらで起訴。おお、別件捜索、別件逮捕続出じゃないか? 狙っている罪状ではあげられそうにないから、こっちでちょいとやってみようぜ。

あさりよしとおの『ただいま寄生中』をピックアップしたのは、この漫画が1991年からはじまるエロ大規制の最中に描かれたものだからです。1991年のエロ大規制というのはいったいなんなのかといいますと、私の記憶が確かであれば、『セーラームーン』のアンソロジーが引き金を引いたキャンペーンであります。当時、同人誌やコミケの存在は本当に一般には知られておらず、本当に細々とその趣味の人たちのあいだだけでのみやり取りされていた、そういうものだったんですが、『セーラームーン』人気をうけ、同人誌をまとめ商業出版する動きがあったんですね。そしてそれがエロであったことが不幸で、さらに人気が出てシリーズ化されたこともまた不幸で、未成年、それこそ『セーラームーン』の本来の受け手であった少女たちの手に渡ってしまった、そしてこれがもっとも不幸なことであったんですね。

今まで一般の目に触れることのなかったエロパロが、そうした少女たちを通して一番知られてはならない人たちに知られちゃったのでした(笑いたいが、笑いごとじゃないですね)。記憶に基づくもので申し訳ないですが、当時の新聞投書欄には「娘の買ってきた漫画を見て愕然とした。少女漫画風の表紙なのに、露骨な性行為が描写されている。いったいこういうものを売るとはなにごとだ」というようなお怒りの意見が寄せられて、けしからん、こういったものは規制されるべきだという声が日増しに大きくなっていった。とまあ、こういった経緯で漫画におけるエロ表現に規制がなされることとなったのでした。

『ただいま寄生中』は、こういった状況下で、こういった状況に対抗する意図をもって連載された漫画であると、作者自らが後書きにのべているのですが、悲しいかな有効なカウンターにはなりえないまま、特定のマニア、あさりよしとおのファンですね、のあいだでのみ知られる漫画となってしまいました。中を見てみれば、規制派に対する反感がかなり露骨な言葉でつづられて、正直なところのべますと拙速。作者の心意気は買いますし、世にも珍しい改造寄生虫の力を借りて変身する戦闘ヒロインものであるところとか、あるいはヒロインのキャラ造形など、気になるところ、好きなところはたくさんあるわけで、だけど一般に受けなかったというのもわかるから、気持ちとしては微妙ですね。でも、漫画の表現規制について語られることがあれば、私が最初に思い浮かべるものというのはこれなんです。

1991年の規制は、表現の緩和修正及び成年コミックマークの表示、すなわちゾーニングをするというところに落ち着いて、けどこれはあくまでもそうした勧告と自主規制にとどまったわけです。ですが今回はレベルが違います。なんてったって罪に問えるというわけで、しかもその基準がよくわからないうえに広範。ロリータマニアが集まる掲示板では、普通の子供の画像が貼られただけで、子供ポルノの公然陳列と見なすことも考えているという意見のある状況では、ロリコンとみなされた人の所持品に明らかにポルノではなくとも疑わしいものがあれば、準子供ポルノの所持に準ずるとみなされうるのでしょうか。だとすると私の友人や愛好している漫画の作者の中には、非常に危ない領域に踏み込んでいる人が何人もいるから、しかも男女問わずいるから、逃げてー! というほかないんですが……。だって男だろうと女だろうと、その本人がペドファイルでなくとも、みなされれば終わりなんでしょう? みなされた人がそれらしいものを所持していたら終わり。所持品がそうしたものとみなされても終わり。電磁的記録でも一緒でしょ? じゃあ、サイトにそれ気な絵を公開している人たちは大変だ。

お前、他人事みたいにいってんじゃないよっていわれそうですね。私は、考えるまでもなくアウトですよ。このBlog見てもわかるように、将来準児童ポルノとみなされることになりそうなタイトルいくつも所持していますから、いちころだろうねえ。お前考えすぎだよという人もあるでしょうが、法が整備されるということは、罪に問えるようになるということは、そういうことなんですよ。私みたく、現実に未成年者と関係を持とうなどと考えない人間でも、それどころか援助交際や性風俗産業は社会全体でおこなう性的搾取でしかないと言い出すような、規制側に近いメンタリティを持っている人間であっても、準未成年者ポルノを所持しているということは、そういう性的嗜好を持って、現実に行使しようとしているのだとみなされるんですよ。そうした芽は早急に摘まねばならないと考えている人がいるのですよ。現実に、世界を完全に浄化したいという欲望は存在して、そしてもし彼らの欲望に歯止めがかからなくなれば、明日の我が身は火刑にかけられるのを待つばかりとなってもおかしくないんです。こういう健全社会を描いたものは、それこそ昔のSFにたくさんたくさんあったわけだけど、まさか自分の生きているあいだに現実のものとなるかも知れないだなんて思いもしませんでした。ああ、世界はどれほどにワンダーであるのだろう。

皆さん、完全クリーンな社会が到来した時には、私はシャバから消えます。あらかじめいっておきます。さようなら。

  • あさりよしとお『ただいま寄生中』(ジェッツコミックス) 東京:白泉社,1999年。

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