2008年3月8日土曜日

気分は上々

 『気分は上々』が単行本にまとまると知って、おや意外だと思った、もうそれこそ申し訳が立たないくらいに失礼な感想ですが、だってまさかと思ったんだもの。建築の現場事務所にて働く女性事務員ジョーがヒロイン。職業ものといったらいいでしょうか。業種も部署も明確でない汎用OLものも多い中、はっきり建築と打ち出したこの漫画。大工、鉄筋工、親方といった男所帯に花を添えつつ、しっかり切り盛りするジョーさんの手腕にほれぼれしつつ読んでおります。しかし、なんで私は単行本化されないだなんて思ったんだろう。好きで読んできた、それは間違いなし。だとすれば、思い込みってやつなのでしょうね。

しかし嬉しい流れであると思いました。ほら、四コマって単行本にならないものも多いですし。派手でないけれども、いい仕事をしているものっていうのはいくつもあるのにさ、本にならない。それこそ絶望的にといっていいくらいにならない。これが単行本になったら買うのになあって思ってるのに、ならないから買えない。連載終了後、同人誌でまとめようと思ったら、ページ数が半端でなかったため断念なんてのもありましたっけ。と、四コマというジャンルは長くこのような状況であったのですが、最近はちょっと変わってきたみたいですね。単行本化されるものが増えてきた。ああ、この好調が続いてくれればいいなあと心の底から思います。と、愚痴というかなんというかはここまでだ。『気分は上々』について書かねばなりません。

先ほどもいいました、『気分は上々』は建築現場事務所にて働くお姉さんが主人公。さばさばとして気っ風のいいジョーが、大工、鉄筋工といった働くお兄さんたち取りまとめ、さらには寺西監督や藤木設計士といった一癖も二癖もあるお兄さんもなんなく捌いて、その様がかっこいいねえ。それに楽しそうだ、っていうのは、現場で働いている皆がそろいも揃って元気で、明るくて、実にのびのびとやっているわけですよ。大工っていう仕事のイメージもあるのかも知れませんね。ビル建ててる、大所帯、さっぱりとして気持ちのいい男たちが、仕事にも頑張り、そして遊びにも。みんなでバーベキューやったり鍋やったりする、その様が実に面白そう。仕事がこんなにも楽しいものなら、きっと毎日は素晴らしいものになるに違いあるまい。そんな雰囲気が素敵な漫画です。

そして現場漫画以外の要素、恋愛ものといいますか、ジョーに言い寄る藤木設計士を筆頭に、ちょこちょこと恋愛絡みが出てくるのだけど、いや筆頭じゃねえか、ほとんど藤木設計士絡みですね。でもこれが悲しいほどに相手にされていないというおかしさ。文字通り一蹴されることさえあって、それくらいに報われないのだけど、その報われなさがいい味出していますよ。めげない、しょげない、あきらめない。きざでかっこつけで、ほんとにこんなのいたらきっと鼻持ちならない嫌なやつだろうなあって思うのだけど、それが嫌なやつにならず、それどころか憎めない男に感じられてしまうのは、この作者の持ち味なのでしょう。あるいは、見目麗しい男前女性鉄筋工優さんに圧倒的に負けてるからか? いずれにせよ、恋愛要素多少持ち込んでのどたばたがあっても、そればかりに偏らず、本筋のよさ、面白さを離れません。

こんな風に恋愛の要素や、さらにいえば家族ものの要素なんかもある漫画なんだけれど、欲張りって感じはまったくありません。あくまでも軸となるのはジョーであり、ジョーの仕事の現場であるのです。それ以外の要素は彩りにして潤い。ちょっと彩り多めのような感じもするけど、面白いから問題なし。そう思えるのは、ジョーを取り巻く面々、もろもろ、職人たちや彼らの醸し出す雰囲気がしっかりと描かれている、すなわち軸がしっかりしているからかと思います。楽しく仕事、そんな感じが伝わってきて、いやあいい漫画だ。気分よく読み終えて、さあ自分も頑張るかあ、気分一新できる、そんな感じがいいのです。

ところで、これってセレクションですよね。正月にジョーの妹である絵里と絵美が振り袖きてる回があったように思うんですよ、確か。もっと家族クローズアップといったような話もあったはずだし……。仕事以外は彩り、潤いといっておいてなんですが、続刊では、そのあたり、家族の風景もたくさん収録されたらいいのにな、なんて思っています。

  • 奈々緒舞流『気分は上々』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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