2008年3月7日金曜日

つくしまっすぐライフ!

 『つくしまっすぐライフ!』、ヒロインなずなはのびのびとして、その健やかさが魅力であるなと思うのです。作者後書きにて曰く、女の子に見えなくなることが多い娘です。背は低め? 飾らないショートカットが少年らしさを感じさせながらも、髪留めや眼鏡といった小物、そしてしぐさの端々に女性の華やかさが感じられます。爽やかだなあ、まるで野に咲いた花のような美しさじゃないか。そんなヒロインが通う女学校。山の上にあるちょっと人里下界と隔絶した世界において繰り広げられる、ちょっと不思議で楽しげな生活。時に恋に似た感情が彩りを添えて、素敵だなあって思う。ええ、いい漫画です。

作者は松田円。『サクラ町さいず』の人でありますね。わりと落ち着いた絵柄。びかびかするような派手さの対極にあるような画風で、なのになぜか目を引いてしまうのは、しっとりとしたはなやぎがあるからじゃないかなと思っています。それこそ表情に、しぐさに、のどかさやほがらかさがあふれるようなところがある。そして憂いや感傷も美しく、いい絵だなあ、いい漫画だなあと思わせられることが度々なのです。

とはいえ、『つくしまっすぐライフ!』は後者の感情や、切ない恋物語といった様子とは縁遠く、そういった要素を楽しみたければ『それだけでうれしい』の刊行を心待ちにするしかなさそうです。なので『つくしまっすぐライフ!』では、前者の要素、快活にして楽しげな様を味わうのがよいのでしょう。なにしろ山の上の女子校、お嬢様学校というような風は皆無で、ちっぽけな人を圧倒する自然の世界、登校下校はサバイバルだ! ってどんな秘境なんだろう。その秘境の学校には個性的な人が集まって、いや人の範疇に含まれないような人もいるのだけど、いずれにせよちょっとずつ普通さからはずれた人たちが、ものすごく普通に学校生活を送っているという、そういうところがおかしくて好きなんですね。

普通さからはずれてるっていえば、自然の景観を壊さないよう着ぐるみ着せられているエージェントとか、もう意味ちっともわからないんだけど、面白いよなあって思って、加えて中に入っている人たちですよ。これが無闇にいい人で、ああいう素朴というか純情っていうか、読んでいてほっこりします。ほらさ、手袋の話とかさ。ベタといえばベタかも知れないんだけど、それでも染みとおってくるような情感があって、ああ綺麗だな、透明だなって思うんです。そして松田円という人は、こういうささやかな気持ちの行き交うところに、ぽつりぽつりと明かり灯すようにして、人の心のいじらしさ、可愛さを照らし出してくれるものだから、私もつい嬉しくなってしまうんです。

引用

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