2007年9月22日土曜日

家政婦が黙殺 — 篠房六郎短編集

 今更ですが、私は篠房六郎が好きです。はじめて買ったのが『こども生物兵器』。そこに描かれた読み切り『空談師』の妙にシリアスで、そしてあの小気味いい落ち。非現実に現実を思い暴走した心の切なさ、一方通行の悲しさがあったかと思えば、非現実において格好良さを追求するその背面に押しやられた現実のくだらなさもあって、それが妙に泣き笑いの悲しさを醸し出してて、あの設定はよかったですよ。くだらなさなんていっちゃいけないんだと思いますが、人というのは誰しもいい部分、格好いいところを見せたいとか思っちゃったりするもんだと思うんです。裏っかわにやばい部分、人には見せられない部分を隠してね、それがばれちゃった気まずさと言ったらいいかなあ。けどね、一旦その人の根っこをつかんじゃったら、ちょっとの瑕疵は帳消しかも知れないよ。だから人と深く知りあうことを怖れることなんてないんだよというメッセージにも思えた。そんなわけで、今日は篠房六郎のあまり表立ってはいない側、ダークサイドとはいわないけどね、下ネタ満載、パロディ満載の『家政婦が黙殺』を取り上げてみたいと思います。

(画像は『篠房六郎短編集 — こども生物兵器』)

と、ここまで書いてなんなんですが、この漫画に関しては本当にコメントしにくいんです。もともとはエロ漫画誌に連載されていたものが集められたんでしょうか。けど、作者も冒頭の描き下ろしでいってるんですけど、ちっともエロくなりませんでしたそうで、確かに本編見ててもエロくはないですね……。でも、下ネタは満載です。ええと、ここに書くのにものすごく抵抗あるんですが、バイブとかポコチンとか、そういうのがどかすか出てくる、そんな漫画で、ダイレクトなエロギャグ漫画と認識するのがいいでしょうか。とにかく、そうしたネタが苦手ないしは嫌いという人は、決して読んではならない漫画であると思います。

さて、そういうネタが苦手ないしは嫌いと思われがちな私ですが、読んでどうだったかといわれますと、面白かったですよとしか答えようがないんです。面白さの質、傾向もありますけれど、漫画やアニメ、ゲーム、あるいはよくあるパターンを下敷きにしたパロディを基礎にして、そこにエロ用語連発ないしはダイレクトな描写がのっかってくるという二重構造が面白かったです。たとえば、肉奴隷さんのシリーズにキン肉マンパロディが見られるし(あ、けど、『シックスセンス』はさすがにわかりませんでした)、他にも恋愛シミュレーションパロディや魔法少女パロディがあって、それら要素はエロ交じりギャグとともに小ネタとして機能していたり、またそのパロディとしての面白さが前面に押し出されたりと、見せ方が本当に多様です。

パロディとしての面白さであれば、『男一発六尺魂』なんかはかなりものですよ。やくざ漫画の手法でもって、恋愛シミュレーションを描いてみましたといったらいいのかな。出てくるのは仁侠こわもての兄さんばかりで、男惚れだとかそんな言葉もありますが、そういうのをことごとく恋愛シミュレーションっぽく描いて、好感度アップとかさ、アルバムモードとかさ、ギャップというかそれだけで笑えるわけです。絵も、あのリアル志向でしょう。絵がめちゃくちゃシリアスなのに、内容は馬鹿で、そのシュールさ、くだらなさが最高でした。

基本的には、このくだらないという評価がすべてなのだと思うのです。とにかく、くだらない。くだらない地口、しゃれの類いに、絵と内容のギャップ、どこをとってもくだらないんですが、そのために、くだらないはつまらないとはイコールではないというのがよくわかります。くだらないのが面白いということもある、馬鹿馬鹿しいけど笑えることはあるわけです。そして『家政婦が黙殺』はそうしたくだらなさを面白さにつなげている、そういう漫画の集成であると思います。

引用

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